第2話 登校
「おやすみなさい」
家族に”おやすみ”を言って布団に潜り込む。
高校か~入学したんだな~。全然実感湧かないや~。
ゆっくりとまぶたを閉じ、今日一日を巻き戻す。
―― ※ ――
「だいじょうぶだってば~」
『明日の準備はいいの~』
「お風呂あがったよ」
『成実~お風呂湧いたわよ~』
「へぇ~。(でもクラスには三木って名前はいなかったな)……ごちそうさまでした」
『ミキさんって、母さんの幼なじみの……』
『そういえばミキさんの娘さん、アンタと一緒の高校に入学したのよ』
「ん~まぁまぁ。おかわりもらうね」
『おい成実、入学式、どうだった?』
「いただきます」
『今日はカレーライスね』
『成実~ごはんよ~』
(あ~~、なんだかんだで疲れたんだな。お腹ふくれたら昼寝しちゃったか……)
(明日は教科書配るんだったな。大きいカバン準備しないと)
(カップ麺にするか)
【お昼は適当に食べてね】
「ただいま~」
「へ~”愛ちゃん”もか……さようなら」
『”成実君も”ここで降りるんだ。じゃあ、さようなら』
「そうかな、あ、僕ここで降りるから」
『へ~成実君すごい、ちゃんと手帳に書いているんだ』
「明日は始業式と、その後部活紹介だね」
『明日は何があったんだっけ~』
『うん!』
「ご、ごめんね。あれ、あ、愛、ちゃんもこのバス停?」
『今日はなんか疲れちゃったね。いろいろと……』
「『失礼しました!」』
『「はい!』」
『お、ちゃんと書いてあるな。こういうのは最初が肝心だからな。お疲れさん。気をつけて帰るように』
『先生、日誌をおもちしました』
「『失礼します!」』
『よろしい!』
「え、えっと……愛ちゃん」
『いいよ、それにさ、こう日誌を持っていると、”できる”生徒に見えなくない? あと私の名前は?』
「あ……井筒さん、日誌なら僕が持つから」
「こっちはだいじょうぶだよ」
『戸締まりはこんなモンかな?』
「あ、あ~はい、そういたしますです……」
『え? さっき言ったんじゃ? 愛ちゃんって?』
「じゃあ、ぼ、僕は井筒さんをなんと呼べばいいの?」
『じゃ、じゃあ、私、長田君のことを、成実君って呼ぶね。お、幼なじみだから、名前で呼ぶのは、あ、当たり前だから』
「あ、うん、なんとなくだけど、わかるような気がする」
『お、幼なじみなら、なんか安心するっていうか~。クラスメイト以上、友達未満っていうか~』
「えっとぉ……それって?」
『まずは、幼なじみからで、いいですか?』
―― ※ ――
《なんじゃそりゃあぁぁぁぁ!》
さすが我が腹筋! コミック通りに直角に飛び起きた!
えええええ!? いきなり幼なじみ!
なにそれ!
今日初めて会ったのにいきなり幼なじみ宣言!
しかも名前呼び!
さらに”ちゃん”付けだぞ”ちゃん”付け!
ひょっとしてあの
[もしかしたら? サイコパス]【検索】←
慌てて本棚に鎮座している我が
(
さすがに女神達からの啓示はない。
そうだよな……
まぁいいさ。しょせん
再び布団に潜り込む。これから訪れるであろう、井筒……あ、愛ちゃんとの、バラ色の高校生活にドキを胸胸しながら……。
《女神さまぁ~! 幼なじみ男子は、幼なじみ女子に向かって、どう話せばいいんでしょうかぁ~!》
再び本棚の前で膝をつく。
こうして、高校生活の一日目は終了した。
―― ※ ――
人間、一晩寝れば昨日までの杞憂なんかどこ吹く風さ。
いつも通り起きて、いつも通り朝食を取って、いつも通り顔を洗って、いつも通り着替えて。
さぁ! 新しい高校生活の始まりだ!
「いってきます!」
玄関のドアノブに手をかける。……もしや、ドアの前で待っていたり。
ゆっくりと開ける。隙間から左右を見る。井筒さんはいない。ふう~。
エレベーター。マンションの玄関。井筒さんはいない。ふぅ~。
そうだよな。スマホの電話番号やメール、SNSさえ交わしていないんだから、僕の家なんかわかりっこない。なんだ、ちょっと考えればわかることじゃないか。
おっと、バスにちょっと遅れそうかな。
別に次のバスでも間に合うんだけど、バスを使っての初めての通学だし、くせを付けておかないと。
って! ちょうどバスが来てるよ! ダッシュ! 間にあったぁ!
ピピッ! とICカードを掲げる僕、ちょっと大人。
ここは二つ目のバス停だから席は空いているけど、とりあえずつり革につかまると
『……君。成実君』
ん? 誰かが僕を呼んでいる。母さんかな。忘れもの? でも君付けなんて。
『成実君』
バスの後ろから聞こえる声。しかも女性の、うら若き、JKの声?
まさか……。
『成実君。ここ、空いているよ』
い、い、い、井筒さんが、いたあぁぁぁぁ!
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