第12話 料理人の盲点
結城 譲二ユウキ ジョウジは日本料理を中心に活躍する凄腕の料理人である。
高校を出てから料理一筋、15年の修行を終えた譲二は、地元に帰って自分の店を開いた。もともと手先が器用で、調理の手際の良さや素晴らしい発想の日本料理が評判となり、譲二の店は多くのお客さんが訪れる人気店となっていった。
そんな忙しくも充実した日々の中、いつも通り店ののれんを出そうと外に出た所、
「何だぁ!?」
見慣れぬ光景だった。昨日まで日本家屋が立ち並んでいた場所には、レンガ風の石造りの建物が立ち並んでいた。また、歩いている人も耳の長い女性や3メートル近い大柄な男性、背中に羽を生やした子ども等、様々な種類の人々で溢れている。
一瞬、頭がおかしくなったのかと感じた譲二が後ろを振り返ると、そこには紛れもなく自分の構えた店だけが変わらずに建っていた。
「店ごと・・・別の場所に来ちまったのか?」
ここは様々な人種が友好的に暮らす世界。その中心国、ノーブル共和国。
――—三年後
「最初はどうなることかと思ったが・・・一芸を磨けば、何とかなるものなんだなぁ、本当に」
譲二は、国内でも話題の料理人となっていた。この世界の人々が、今まで見た事もないくらいに美しく彩られた料理の数々は庶民は勿論、貴族までを虜にした。
彼の作る料理に高級食材はあまり使わない。肉や魚は庶民向けの店で買ったものだし、イモやネギ、キノコも譲ってもらったり、自分で育てた物ばかりだ。
だが、彼には技術があった。そんじょそこらの料理人が束になっても敵わない技術が。
そして今日。周辺諸国が一堂に会するこのノーブル共和国建国祝賀パーティ。
栄えある晩餐会に、料理人として呼ばれた譲二は、特別に最初の一品を披露する事になったのだ。
一月じっくり考えた末、譲二は『だし巻き玉子』を作る事にした。
日本でもお馴染みのレシピだ。
昆布でじっくりとダシを取り素早くといた玉子に絡ませる。小エビに似た生き物を小さくスライスし、小さく刻んだネギを玉子に加えながら上手く巻いていく。
口で言うのは簡単だが、非常に焼き加減が難しいので、シンプル故これでもかという位に料理人の腕が分かる料理なのだ。
丁寧に作られた譲二の一品は、数々の国から、晩餐の始まりを告げるにふさわしい美味さだと褒め称えられる一皿となった。
その翌朝。
「この店の主、ユウキ・ジョージを逮捕、拘束する」
譲二の店に、複数の衛兵を連れて王国の騎士がやって来た。
あまりにも突然な宣告に、譲二は騎士に尋ねた。
「私は何もしておりません!いったい私がどのような犯罪を犯したというのですか?全く身に覚えがございません!」
「昨晩の晩餐会で、お前は料理に毒を入れただろう。ある国の方々が体調不良を訴え出ている!」
「毒なんて入れてません!その様な物、入れる訳がないでしょう?」
すると、騎士は革袋から昨夜譲二が用いた食材を取り出して伝えた。
「南方大陸から来られた獣人、オオカミ公爵とチワワ伯爵が腹痛で倒れられたのだ。見覚えがあるだろう?」
騎士が持っていたのはネギだった。
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