第8話 婚約破棄された公爵令嬢の優雅な人生
「ローズマリー、お前のような悪辣で冷徹な女が私の婚約者というのは恥ずかしい。よって今日限りでお前との婚約を解消する!」
王子のいきなりの発言に、パーティ会場は静まり返った。その背後に庇われるように王子のお・気・に・入・り・の・娘が隠れて私の様子をじっと見ている。
その発言を受けた私は
『ようやく婚約破棄宣言キターーーーー!!!!!』
と内心で全力ガッツポーズを繰り出していた。
私、栗原陽子は普通のOLだった。
ある日、大好きだった乙女ゲー『純愛貴族』を徹夜でプレイしていた所、急に目の前が真っ暗になって・・・。気が付いたら主人公、ローズマリーとして生きていく事になってしまったのだ。
当初は混乱もしたし、何がなんだか分からないしで一日中泣いていたが、状況が変わるわけではない。それよりも置かれた状況を少しでも良くするべきだと思った陽子はこの世界で強く生きていく決断を早々に下した。ランデルク公爵令嬢ローズマリーとして。
このゲームに出てくる相手役は主に5人いるのだが、俺様系、クール系やヤンチャ系、各属性をふんだんに取り入れている乙女ゲーの教科書のような素晴らしい作品だ。中でも私は優しい王子様系の・・・
「こんな所にいたのか・・・心配したよローズ」
「カイル・・・」
そう、このカイル・フォームスが私のお気に入りキャラなのだ。
この乙女ゲー『純愛貴族』のストーリーはまず、主人公ローズマリーが婚約者である王子にあらぬ不義の疑いをかけられる所から始まる。それは全て王子が気に入っている別の娘を正妻として迎えたいという下心からなのだが、この馬鹿王子が様々な嫌がらせを仕掛けてくる中で、相手役である5人の男の子達が傍に立って支えてくれる。そうして王子の嫌がらせから難を逃れた後は、自分の領地を内政チートで支えて選んだ相手役と幸せな結婚生活をおくるのだ。
カイルは貴族といては王家との繋がり自体は薄く、正直私の家との家格はやや下だ。実家からもカイルとの交際は認めない、王子との復縁を申し出るように催促が来ている。
だが、そんな事は関係ない。現代知識を持った私は彼を支え、いずれはこの国一番の繁栄を領地にもたらす事が出来る!そうすれば実家からの声なんて気にしなくていい。
陽子ことローズマリーは野望に燃えていた。
―その夜
王家の一室にて
「・・・というのがランデルク侯爵令嬢の思惑です。内政に関して彼女が取り仕切る事など、今後も絶対にあり得ませんが、公爵自身が娘を旗印にしかねる場合もございます。お気を付け下さい」
カイルはそう告げると、ローズマリーの調査書を王子に渡した。
「そうかそうか。5人も用意したが、お前を選んだか。一番知恵の回るお前なら、今後も安心だろう。選ばれなかった奴らはお前のフォローに回すから、きっちりとあの娘の手綱を握っておいてくれよ」
「畏まりました」
――—今から10年程前
ランデルク家は王家の血が入る、れっきとした有力貴族であったが、他国と結び付き、王家を乗っ取ろうとする動きがみられるようになった。だが、証拠が無く、下手に突けば他国からの侵攻を許してしまう事態に発展する事もあり得る。
焦りを感じた当代の王は、歴代の王家の中で最・も・優・秀・な・頭・脳・を・持・つ・王子に助言を求めた。
すると王子はため息をつきながらこう言った。
「それならば、私から彼女に婚約破棄を申し渡しましょう」
「な、何を言うか!そんな事、ランデルク側が認めるわけがあるまい!」
「いえ、大丈夫です。これまでの付き合いから、彼女自身は貴族の在り方を知らない、町娘のような女だと判断しました。加えて自我が強く、周囲の話を聞かずに動くのでとても扱い易い。王家に多少の傷を付けるかもしれませんが、彼女を私の元から離していけばいいのです」
「そんな都合よく・・・」
「いえ、私なら出来ます。ですので、新たな資金源を捻出し、人材を育てる所から始めねばなりません」
まだ6歳になったばかりの王子は、そこから10年の間、ローズマリーに隠れて行動した。
部下に命じ、少しずつ少しずつランデルク家の力を削ぐ為尽力し、他国に対する警戒を強め、ローズマリーの前では馬鹿を演じ・・・婚約者の後釜として彼女が気に入るような男達を教育した。カイルもその一人だった。
彼女はこれから幸せに生きるだろう。優秀なカイルを傍に付け、密かに支えさせれば領地も安泰だ。彼女が何をしようとも、ランデルク家がこれから何をしようとももはや関係ない。対抗する力はこの10年で十分に備える事が出来た。それに私の方からとはいえ、彼女は婚約破棄を受け入れたのだ。こちらの思惑通りとは知らずに。
これからも、汚れを知らない子どものように、無垢なままでいれば良い。
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