第9話 聖域の孤島

―とある国の海岸沿いにある村から数十キロ離れた所に、孤島がポツンと浮かぶ。

 その孤島を海岸から眺める三人の影があった。二人の子どもと老人だ。



「ねー、司祭さまー。あの島は何で誰も住んでないのー?」

「馬鹿だなーミルは!あの島は昔、この国を救った勇者様が召喚された場所なんだ!あの島は特別な魔法装置が残っていて危険だから、誰も住めないんだよ」


「その通りだ。あの場所は代々転移陣・・・いや、偉い学者様が大勢で作ったキカイがまだ動いているんだ。もし何かの間違いでキカイが動いてしまったら、誰も止めようがない。下手をすると、大きな事故に繋がってしまう。だからそれを知る者は皆怖がって近寄らない。・・・二人とも、近寄ったらだめだよ?」

「はあ~い!」


子ども達のお喋りに、司祭は満足そうに頷いた。

「よしよし、素直な子には特別に、おいしいミルクを入れてあげよう。お友達も連れて来なさい」

「わあ!ありがとうございます司祭様!」

「ありがとう!」


笑顔で村へと駆けていく子どもを見つめ、司祭ベルモントは暗い目をして二人を見送った。



司祭は溜息を吐く。



 あの島にある魔法装置:召喚陣は強制的に時空間を切断し、別の時空間への扉を開く特別なものだ。

 遥か昔、今から300年も昔から執り行われていたこの研究は、異世界に住む知的生物から未知の知識やエネルギーを享受する事を目指して続けられてきた。

 しかし、この研究は多くの犠牲を生み出した。

 召喚するためには大きな生命力を持った生き物を媒体にしなければならない・・・国の研究機関は動物実験を繰り返してきたが、それも足りなくなると、戦争奴隷や犯罪者を用いてそのエネルギーを強制的に集めるようになり・・・島には多くの血が流れ、死体を焼くための死臭が漂うようになる。

 ようやく召喚陣の研究が成功すると、今度は更なる地獄が待っていた。


 一度召喚儀式を施すには、健康な成人男性50人分の生命力を必要とした。そして・・・初の異世界召喚はとんでもない事態を引き起こした。


―――血肉が醜くへばり付いた、気持ちの悪い物体が、召喚陣の中から現れた。

 それは人の皮だった。髪の毛や体毛がかろうじて残っている事から、人間がこの世界の他にも存在する事が立証された瞬間だった。


 それから幾度も実験は繰り返されたが、同じような物体が現れるか、体の一部であろう肉片だけが呼び出される結果に終わった。何度も何度も実験が行われ、その度に大勢の人が亡くなった。

 そして研究者達は一つの結論を導き出す。

 時空間を繋ぐ穴は不安定な磁場に覆われており、正常に生物が通り抜けられる所ではない、と


 研究は凍結したが、この施設は島ごと保存しておかねばならなかった。それこそ本当に国難が迫った時にこの研究が生かされる場を残しておくため、はたまたこの国の闇とも言える施設を、他国の者や自国の民に知られる事を防ぐため。


 研究者の一人であったベルモントは聖職者となってこの島に残り、死ぬまでこの役目を背負う任務を負ったのだ。

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