第2話 やり直し

 木村雄太は大学3回生の夏、所属していたサークルの旅行中に海で溺れて亡くなった。


 魂だけの存在となった雄太は、突然の死を受け入れられずにいたが、生き返る事が出来ないと知ると嘆き悲しんだ。そんな彼に、神は次の転生では望みの奇跡を与える事を約束する。奇跡とは、神の祝福であり贈り物。只人である人間に神がもたらす人外の力。


 しばらくして雄太は神に一つの奇跡を望んだ。

「次の人生では、死んだとしても失敗した所からやり直せる力が欲しい」

 それは心からの声だった。明日を、未来を信じていた自分に起こった不幸。それが今度はいつ起きるか分からない。それをやり直せるならば、次こそまだましな人生を送る事だって出来るだろう。






―――――――――――――――――






 とある星のとある国。

 ローニア王国で雄太は、農家の三男として転生した。神から授かった身体は常人よりも強靭で、小さな頃から畑仕事や狩りで右に出る者はいなかった。


 13歳になった雄太は、この世界の未知を探求し、様々な職業を生業とする冒険者となる為、王都に向かった。初めは交渉事や金銭で幾度も失敗したものの、この世界では割とマシな地球での知恵と若さで何とか窮地を脱し、成長していった。


 冒険は過酷だったが、旅の先で頼れる仲間に出会った。鍛冶屋の息子のユーゴ、森を住み家とする猫の獣人サーニャ、離島からの流民の戦士ゴラ。そして旅先で助けた魔法使いのノエル。

 男3人女2人。一緒に冒険をした日々は忘れもしない。猫探しに訪れた館に盗賊が忍び込んでの大捕り物。薬草探しに出かけた山で食べたキノコで5人仲良く腹を下した事もあった。無理やり参加させられた闘技場での戦いで隣国の陰謀に遭遇したり、はたまた領主に頼まれて海賊退治に向かった事もあった。


 初めて死にかけたのは、経験を積み、満を持して挑んだ北方でのドラゴン退治だ。同業者50人で挑んだものの、高熱のブレスと鋭い爪で近づけず、空を飛び遠距離で攻撃する為に幾人もの冒険者に死傷者が出た。ユーゴの鍛えた盾、ノエルの魔力による加護を受け、万全を期してはいたが、それでも自分や仲間達が死なずに済んだのは奇跡だった。雄太の剣がドラゴンの首を突き、ようやく討伐出来たのは3日目の朝だった。


 ドラゴン退治の功労者として王国から称賛を受けた。それからは広い大陸内を冒険し、大陸一の剣士として雄太と仲間達は有名になった。その後も数多くの冒険を繰り返したが、一度も神の奇跡が起きる機会が無かったのは本当に恵まれた仲間達のお陰だと常に思っていた。


 幾年かが過ぎた後、雄太はノエルとの結婚を機に冒険者を辞めた。皆惜しんだが、最後は笑顔で送り出してくれた。


 剣の師範として王国に迎えられた雄太は、幸せだった。死ぬような危機も無く、気の合う嫁との二人暮らし。剣を教えるのは楽しかったし、生徒の成長も素直に嬉しかった。王都で鍛冶屋を受け継いだユーゴとは何度も酒を呑み、いつも帰ってからノエルに叱られた。たまにサーニャやゴラが王都に帰ってきた時には、お互いの愚痴を聴いて笑い合った。


 やがて二人の間に子どもが生まれ、町の様子もどんどん変わっていく。地球のような娯楽は無いが、何よりも幸せを分かち合う事が出来る家族がいる喜び、気楽に居られる仲間達の存在が、これまでの思い出が胸を温かくしてくれた。


 年を重ねる事数十年、仲間が一人、また一人と亡くなっていく。ついに雄太も80歳になった冬、家族に看取られる中でこの世を去った。





-はずだった。





「・・・は、ははは」

雄太は呆然としていた。

5歳児に戻った自分の姿に困惑しながら、ただただ呆然としていた。


「ちゃんとお茶碗を持って食べなさい!」

母親のお叱りの言葉を受けて。

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