第3話 最強の肉体

「誰にも負けない肉体と生命力が欲しい!」




 神から加護を得た男、鈴木裕也は異世界で無敵の戦士となった。

 転移した国、ボルドー国は周辺諸国との紛争が始まった最中、厳しい状況にあった。小国であったボルドーは、隣国同士の攻め合いによって国力が低下し、もはや背水の陣・・・という所まで追い詰められていた。

 だが、国の今後が決着するという戦場で、敵兵の銃弾を受けても倒れず、拳一つで風を起こす。伝え聞く神話の男神の如き活躍を見せた裕也の名は、戦場を駆け巡り、あれよあれよという間にボルドーの王の耳に入る事となった。

 この会戦から息を吹き返したボルドー国は裕也を救国の旗頭とし、数々の紛争から国を守らせた。裕也はその期待に応え、一騎当千の力を持って敵国を蹴散らした。

 次第に周辺諸国は長年続く戦争に疲れ果て、ついに和平を結ぶ交渉を行う事になった。これに同意したボルドーは、その後100年の平和を享受する事が出来たのだった。

 そんな平和の立役者、鈴木裕也にはその死後、この二つ名が贈られることとなった。

【災厄を生んだ悪魔ユーヤ】


 裕也が生きている間は確かに平和だった。国家同士の結び付きも深まり、国は富む。国民も豊かになった。 

 だが、裕也が100年の寿命を終え、国内を見渡せる丘にある墓に埋められてから数日後。恐ろしい事が起こる。


 裕也が眠る地に生息する動物に異変が見られた。白目に濁って変な飛び方をする鳥、常に奇妙な鳴き声を上げるリス、小動物に見られる異常はやがて、人間にまでその輪を広げていった。

 国内で調査が成された結果、分かったのはこの異常が裕也の墓下より起きている事。墓の下から異常な魔力を持った目には見えない生き物が他の動物に異常をきたしている事。


 寄生虫である。


 裕也が体内で飼っていた寄生虫もまた、独自の進化を遂げ、無敵の体と脅威の生命力を備えてしまったのだ。


 裕也というストッパーを失った寄生虫は、肉体を飛び出し、土に這い出て他の動物に取り付く。自然に増殖し、無数に増えていく脅威に人類の成す術はなかった。

 こうしてボルドーの民は国を捨てるしかなくなった。周辺諸国もこの脅威に耐える事が出来ず、大陸の大半を放棄する羽目になった。


 今もユーヤの名は人類の災厄として広まっている。

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