幕間1

途切れがちな会話、紡いだ接点

 三國はブルーダイヤの公開を伝える新聞をテーブルに放ると、携帯電話を手に取った。回線が繋がるとすぐに、車が走り抜けるような雑音が聞こえる。

「久しぶりだな。今はどこの刑務所だ?」

「塀の中は飽きたわ。外の世界も大して変わらないけど」

「あんたも歳を取ったわけだ」

 電話の声に老いを感じたのは回線の問題ではないだろう、と三國は思った。

「時間は誰にも平等よ。私が死に近づいたのと同じだけ、あなたも老いてる」

 そう言うと、彼女はわずかに、おそらくは意図的に、空白の時間を作った。「あの子が、日本へ行くわ」

「そうか」


――あの宝石が日本に来る。これも何かの縁だろう。二人を会わせたい。そこから生まれる未来もあると信じて


 三國が少し前に送ったメールに対する回答だった。

「エレノアは?」

「宝石の存在には気づいている」

 その話を持ち出したときの様子で、三國はそれを確信した。「あとは、こちらでうまくやるさ」

「そう」

 再び短い空白が訪れる。それから、彼女は唐突に何かを口にした。

「何だって?」

「三月二十一日の午後三時。横浜の『クロスロード』というカフェ」

「それが?」

「マルティナに行くように伝えた」

 新聞の端にメモを取っていた三國の手が止まった。

「……まずは、私一人で行ったほうがいいんだろうな」

「かもね」と電話の声が答える。


 三國はしばしの間思案したが、次に言うべき言葉を思いつかなかった。代わりに、ふと気になり軽口を叩く。

「よく横浜のカフェなんか知っていたな?」

「昔、日本に行った時に一度だけ行ったことがある。何を盗んだかは覚えてないけど、その店が悪くないコーヒーを出すことは覚えてる」

 軽口で返したその言葉の後に、途切れ途切れに続いた会話の中でも一番長い静寂が訪れた。今は雑音も聞こえない。短い会話はすでに終わりが近いことを、三國は悟った。


「あとはあなたに任せるわ。私にはこれ以上、どうすることもできない」

「それは私も同じだ。二人の過去を語ることは、二人にしかできない」

 電話を切ると、三國は深いため息を吐いた。新聞に目を落とす。ブルーダイヤの記事の横には、つい先ほどまではなかった日時と場所が走り書きされている。

「クロスロード、か……」


 それは幾分頼りなくも、年老いた彼女が確かに委ね、三國が確かに紡いだ過去と未来の接点だった。

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