3 一夜明けて、未練はない

 遼がリビングに行くと、そこには誰もいなかった。テーブルの上には今朝の朝刊が開かれた状態で置かれており、昨夜の事件の記事が載っていた。ただ、朝刊の締め切りに間に合わなかったのか、記事は多くのことを伝えていなかった。

 テレビを付けたところに、絵里奈がひどい寝ぐせのまま現れた。朝の挨拶もそこそこに、新聞記事を食い入るように見る。記事には「ジュエル」の写真が添えられているので簡単に見つけられたようだったが、内容を理解することはできないので、その大きさだけを確認し、扱いが小さいと不満を口にしている。


 テレビのチャンネルを回したが、その時にブルーダイヤ盗難のニュースを伝えていたのは一局だけだった。内容は新聞のものとほとんど変わらなかったが、新聞が伝えていないことを二つ伝えていた。

 一つは、盗まれた二つの宝石はいずれも「ジュエル」ではないということ。もう一つは、ジュエルが最終日の公開を直前になって取りやめたということだった。

「やっぱり、私たちが盗んだのは『ジュエル』じゃないの?」と絵里奈が言う。

「どうやらそのようだな」


 実のところ、自分たちが盗んだのが本物の「ジュエル」でないことは、ジュエルと対峙している時から遼は薄々気づいていた。昨夜、絵里奈と会話を交わす中で、ジュエルがほんの一瞬感情を露わにした時があった。その時、彼は一度だけ「あの宝石」と言いながら、窓の外を指さした。「ジュエル」が入っているはずのジュラルミンケースがすぐそばにあるのに、だ。


「でも、もういいんだろう?」

 複雑な表情でテレビ画面を見つめている絵里奈に、遼が尋ねる。

「えぇ、何の未練もないわ」と絵里奈は答えた。「朝ご飯、食べるでしょ?」

「食べる。けど、君が作るのか?」

「何か問題ある?」

「いや、別に」

「作るって言っても、シリアルに牛乳掛けるだけよ」

「安心したよ」


 キッチンに向かう絵里奈を遼が呼び止めた。

「今日の夜、時間あるか?」

「あいにく暇だけど、なんで?」

「軽く飲みに行きたいんだって、俺が」

「伝聞形で言う意味がわからない」

 それから遼は何かを思い出したように笑った。

「何が面白いのよ?」

「大丈夫だよ、『結婚してくれ』なんて言わないから」

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