俺の名前は水木。


年は18で、今年から大学に通い始める。


田舎から上京してきたばかりの俺は、一人暮らしをするにあたって不動産屋に来ていた。




「駅からは遠くてもいいんで、できるだけ安い物件を紹介してください」




 そこで紹介してもらった物件、「裏野ハイツ」


月々4万の1LDK。


一人暮らしには十分すぎるほどの部屋だ。


他の物件と比べ不自然なほど安いとは思ったが、たまたまタイミング良くいい所が見つかったんだろう、とその時は思っていた。




 だが、住み始めてからすぐにおかしなことが起こった。


学校から帰って来ると、なぜか水道の水が出っぱなしになっているのである。


シンクから水が溢れ、床が浸水していた。


すぐに蛇口をひねって水を止め、床をタオルでふいた。




「おかしいな……」




 蛇口をひねったまま学校に行ってしまったのか?


しかし、それからも同じことが何度かあった。


夜中に突然、キュ…… という音がしたかと思うと、蛇口から水が出ているのである。


蛇口が壊れているのだろうか?


こういうことがあるのか、大学の友達に聞いてみた。












「何それ、こっわ」




「それ、幽霊の仕業じゃない?」




 絶対馬鹿にしてる。


テレビの心霊番組だって昔はビビってたが、最近じゃ苦笑して終わりだ。




「住所どこだっけ?」




 突然、友達の一人が言って来た。




「事故物件か分かるサイトがあるから、調べてやるよ」




 事故物件といえば、その部屋で首をつって死んだ人がいたり、そういう物件のことを指すはずだ。


そういうのって、不自然なほど家賃が安かったりするんだよな……


多少心当たりがあるため、黙っていると友達が茶化してきた。




「もしかして怖いの?」




「んなわけねーだろ」




 俺は自分の住所と、アパートの名称を答えた。


スマホを覗き込むと、俺の住んでいる地区も何件かそういった物件があるようだ。


地図を拡大していく。




「……おい、お前んち、何号室だよ」




 事故物件には火のマークが記される。


俺の住んでいる裏野ハイツの丁度真上に、火のマークが記されていた。




「……201号室」




「お前、すぐ引っ越した方がいいよ」




 まさに201号室で事故があったと書かれていた。


しかも……




「殺人だって」




 俺の部屋で誰かが殺されたのか?












 俺の帰る足取りは重かった。


殺人があったような所に戻らなきゃいけないなんて……


よくよく調べてみると、その事件で殺された本人の遺体は、まだすべて見つかったわけではないらしい。


犯人は遺体をバラバラにどこかに捨てたために、まだ見つかってないパーツがあると言う。




「ふざけんなよ……」




 絶対明日不動産屋に行って文句言ってやる。


今日中に引っ越しの準備をしようと決め、裏野ハイツに戻って来た。


201号室の部屋に入る。


床が濡れている。




「……」




 蛇口から水が流れ、またしても床が浸水していた。


俺はまず蛇口の水を止める。


これは幽霊の仕業なのか?




「……まさか」




 俺の頭の中に、一つの可能性が浮かび上がった。


勝手に蛇口から出る水、見つかってない遺体……


俺はシンクの下を開け、ドレンの配管を外した。




 そこには、人間の腕が詰まっていた。

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