確信犯

「600円、丁度になります」




 銀田狼ぎんたろうは、コーヒーとタバコ、うまい棒一本を購入し、コンビニから出た。


道端で7分程タバコを吸い、コーヒーのカンに吸い殻を入れる。


そのまま帰社して席に着くと、丁度就業のベルが鳴った。




「お先ですー」




「ちょっと待て」




 引き留めてきたのは上司の今一幸之助。




「お前なぁ、狙い澄ましたように5時に帰って来るの、やめろや。 もう少し前に帰って来て、営業報告せぇや」




 チラ、と時計を見る。




(……チッ、電車に乗り遅れたか)




 この上司の説教だけは、銀田にも読めない。


毎回、これのお陰で狙った電車に乗れないことに、苛立ちを覚えていた。




(やむを得んな、殺すか)




「おい、聞いてんのか!」














 銀田は、会社付近にラーメン屋がオープンする前日に、仕込みを開始した。


マンションの屋上にやって来ると、スパナをふちのギリギリに置く。




(スパナの重量と、ふちに接している面積、この付近の昼間発生している振動数を公式に当てはめると……)




 ノートに走り書きし、計算していく。




(……12時15分36秒に、このスパナは地面へと落ちる。 となると、6秒時間を稼ぐ必要があるな)














 翌日、片方の靴を緩め、出社する。


いつも持ってきている弁当は、あえて持ってこなかった。


そして昼の12時ジャスト、行動を開始した。




「しまった! 弁当を忘れてしまった」




「何だよ銀田、俺のおにぎり一つやろうか?」




 同僚を無視して、そのまま今一の所に向かう。


今一も丁度、席を外した所だった。




「今一さん、お昼ご一緒しませんか?」




「なんや、珍しいこともあんねんな。 でも、お前とはいかへんで」




 銀田は、耳打ちするように今一に言った。




「新しいラーメン屋がオープンしたんですよ」




「な、何やて! それを先に言わんかいっ」




 今一は、ラーメンの酷評レビューをつけている。


ラーメン屋がオープンしたとくれば、評価せずにはいられないだろう。


二人は、会社を出た。




(このままラーメン屋に向かうと、スパナが落ちる6秒前に、マンションを通過してしまう。 だが)




 狙い通り、靴ひもが外れる。




「あっ、靴ひもが……」




「何やねん、はよせーや」




 ピッタリ6秒で靴ひもを結び直し、歩き出そうとした時だった。




「あ、俺の靴ひもも外れてんじゃねーか」




(……チッ)




 今一はモタモタと靴ひもを結ぶ。


12秒かかってしまった。




「今一さん、ラーメン屋はオープンしたばっかりなんで、並んでるかも知れません。 少し急ぎましょう」




「ええやん、ゆっくり行こや」




 しかし、銀田は走り出した。




「な、何やねん、せっかちなやつやな」




「今一さん、早く!」




 丁度その時、スパナがふちから落ちた。


スパナは速度を上げ、落下していく。




(あと2秒、1……)




 スパナは見事、銀田の頭上に落下した。










終わり




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