ソロキャンにて 闇

「えー、続いてのニュースです。 現在も逃亡……」




 俺は、ラジオを回してFMの音楽番組にチャンネルを合わせた。


聞いたことの無い洋楽が、ステレオから流れてくる。




「もう少しで着くハズなんだけどな」




 俺の名前は糸国レイ。


最近、ソロキャンに目覚めた都内の学生(17)だ。


親の車をかりて、あまり知られていないキャンプ地に向かっている。


以前、友達とキャンプに行った際、あまりの人の多さにシラけたが、偶然、隣り合わせたキャンパーからその場所を教えてもらった。




「都内近郊にあって、まだ知らない人ばかりだから、スゴい空いてるんだよ」




 もう間もなく、そこに到着する。


つい30分前まで、アパートやらマンションやらが建ち並んだ通りだった。


それが突然、森の中だ。


カーナビが、目的付近に着いたことを告げた。




「……すっげぇ!」




 車から降りて、俺は目を疑った。


邪魔な人間は一人もいない、真っ平らな平野。


俺は、思わずその場に寝転び、空を仰いだ。


これだけ視界が開けてりゃ、夜空もキレイに違いない。




「彼女がいりゃ、ぜってー連れてきたわ」




 もし気になる女子ができたら、ここに連れ出そう。


考えててたら、何故かニヤニヤしてきた。




「っと、んなこと考えてる場合じゃない!」




 俺は、車からテントの道具を取り出し、準備を始めた。














 ソロキャンは今回が初めてで、少し大きめのテントを持って来てしまった為、張るのに時間がかかってしまった。


もう夕方だ。


すぐにメシに取りかからなきゃならない。




(初めてキャンプした時も、テント張って昼作って、すぐまた夕飯だったっけな)




 今度からは一人用で、張るのも楽なテントを持ってこよう。


近くに川もあるらしいから、釣り竿を持って来るのもいいかも知れない。














 ガスコンロで水を沸かし、インスタントラーメンを投入。


具材はキャベツと卵だけだが、これが妙にうまい。




「はふはふ…… んめぇーっ」




 俺は、夜空に向かって叫んだ。


いや、マジで、こんなうまい札幌一番は存在しないだろう。


札幌どころか日本一だ。




「っと……」




 こんな時に、俺は尿意を覚えた。


しかも、我慢出来ないやつだ。


ここを教えてくれたキャンパーの話じゃ、近くにトイレがあるって話だけど。




「……アレかよ」




 暗闇の中に、蛍光灯で照らされた公衆トイレがある。


人っ子一人いない闇夜の公衆トイレ。


ただただ、不気味だ。




(ダメだ、漏れちまう!)




 俺は、尿意に負けてトイレに向かった。


中は、立ちション用の小便器と、大の個室がある、典型的なトイレだった。


が、




(大の方、誰か使ってやがる……)




 扉が閉まっている。


鍵の所が赤になっているから、間違い無く誰か入っている。




(他に車は無かった…… よな?)




 俺は、早く用を足してしまおうと、小便器の前に立って、ズボンのチャックを下ろした。


その時だった。


個室の扉が開いた。


チラ、とそちらに目をやる。


心臓が、跳ね上がった。




「……」




 出てきた男の手には、血まみれの包丁が握られていた。












終わり

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