ソロキャンにて 光
「ソロキャン」それは、孤高の試練である。
「結構いんな」
俺の名前は糸国レイ。
年は22だ。
ここら辺は元々、キャンプの穴場スポットだったが、今はちらほらと人がいる。
しかも、女子だけのグループもいるし、時代は変わったのかも知れない。
そんな奴らにテクを見せつけるのが、俺の近頃のブームだ。
「よっ」
手慣れた手つきでペグを突き立て、ロープを通す。
この単純な作業が、最初はうまく行かない。
「ねえねえ、ペグってどれくらい深くさせばいいの?」
隣の女子グループから声が聞こえてくる。
ほら、近くに手本があるんだから、見ろよ。
しかし、女子らは俺には目もくれず、ああでもない、こうでもないと言っている。
「……ふん、まあいいさ。 今日はまだ楽しみがあるからな」
テントを貼り終えると、俺は車の荷台から、コーヒー豆の入った袋と、ペットボトルの水、キャンプ用の小さいガスコンロを取り出した。
新品のキャンプアイテムは、妙に男心をくすぐる。
水を鍋に入れ、コンロにセットする。
そして、口元を捻り、火を点けた。
「外で飲むコーヒー、こいつが一番うまい」
すると、また声が聞こえてきた。
「ぜんっぜんつかないよ。 これ、無理っしょ」
女子らは、木の棒を手のひらで回転させ、摩擦で火を起こそうとしている。
この方法は、キャンパーなら一度は試すが、思いの外大変な為、2回目以降は妥協して、ガスコンロかライターを使うのが一般的な流れだ。
「ねぇ、ライター使わない?」
女子の力じゃ日が暮れてしまう。
ライターを使う案にはすこぶる同意だ。
ところが、一人の女子が聞き捨てならぬことを言った。
「あなたは全然分かってない。 キャンプってのはね、自分を乗り越える儀式なの。 便利なものに頼らず、自分の力を使う。 それで火を起こせた時、初めて人は成長できるの。 ……それにね、この世で一番おいしいコーヒーは、自分で起こした火でいれたコーヒーなのよ」
「……!」
俺は、稲妻に打たれたかのような衝撃を受けた。
俺はすっかり中堅キャンパーを気取っていたが、一番大事なことを忘れていた。
それは、キャンプはキャンプアイテムを使う場ではなく、己と向き合う場であるということだ。
都会の便利な生活から離れ、あえて何も無い場所に赴き、出来るだけ自分の力に頼ってサバイバルに身を投じる。
そこで苦難に立ち向かい、新しい自分と出会うのだ。
俺は、鍋の水を捨て、ガスコンロの火を消した。
「ありがとうよ」
俺はこれから、自力で火をつける。
苦労していれたコーヒーの味を確かめる為に。
終わり
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