第18話 輝きの湖(1)

……翌朝、私たちは早朝に目を覚ましテントから外に出た。昨日はあれほどいた赤い宝石を身にまとった蝶の姿はまばらになっており、澄んだ空気が心地よかった。空は雲一つない快晴で、湖は朝日の光を反射し、湖面を風が駆け抜ける度に光の波を輝かせていた。その美しい湖を見ていた仲間のマッシュが湖に自分の名前をつけたいと言った。マッシュ湖という名前は何となく気に入らなかったので、私はとっさに輝きの湖にすると仲間たちに宣言し、マッシュ以外の同意を得る事ができた。

『ロリオフの不思議島探査記』より

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 遠くの空で何かの音がした。鳥の声だろうか。ぼんやりと眠りから覚めつつあったカールが毛布の中で目を開けると、テントの布地越しに朝日の光が漏れていた。耳を澄ませると、薪のはぜる音や水の沸騰する音、時々誰かが歌う鼻歌が聞こえてきた。

 夜が明けたらしい。カールは毛布から出ると、いつでも使える様に横に置いておいた剣とテントの骨組みに掛けてあったコートを着込みテントの外へ出た。


 早朝の湖はわずかに霧がかかっていたが対岸まで見渡すことができた。普通に歩けば数時間で一周できる輝きの湖周辺はヘルメサンドやアブロテンとは異なり、周りで暮らす人間がいないので静かで、薄曇りの空を映す水面は穏やか、遠くにみえるエプルア山脈の一部で三つの尖がった山頂が特徴的な岩山が湖面に逆さまに映っている。地図によるとあの岩山はマッシュ山というらしい。山頂にはまだ雪が残っており、湖周辺の木陰や岩影などにも所々雪が残っている。試しに吐いた息は真っ白になった。


 「あ、カールさん、おはようございます」


 早朝の見張り当番らしいモナが、石を組んだかまどにかけた鍋で朝食を作っていた。火が付くことを恐れてか、帽子は被っておらず、癖の強い長い巻き毛を無理やり後ろでまとめている。


 「おはよう、モナ。見張りご苦労様。今朝も豆スープかな」

 「昨日の残りの野菜と、途中でノーラが取ってきた野草を入れてあります。湖で魚でも獲れればいいんですけれど」

 「干し肉で十分だよ。他のみんなは?」

 「アニーは素振り、ノーラは馬に水を、ミアミは私の前の見張りをしていたのでまだ寝ています」

 「そうか。私は顔でも洗ってくるよ」

 「いってらっしゃいです」


 モナはカールに軽く手を振ると、鼻歌を交じりに料理を再開した。

 カールはキャンプ地から少し離れた所にある湖岸に近付き、手で水を掬う。冬の雪解け水をたっぷり含んだ水は痛いほど冷めたく、その水で顔を洗うと目が覚めた。水中の岩の間を針のような小魚が陽光を反射させながら泳いでいた。カールがしばらく魚の群れを眺めていると、湖面に大きな鳥の羽が漂ってきた。ちょうど足下に流れ着いたので手に取ってみる。焦げ茶色のその羽はカールの腕程の大きさがあり、持ち主はかなり大型の鳥形怪物のようだった。


 「カール様、おはようございます」

 

 羽を見ていたカールの側を、馬に水を飲ませ終えたノーラが通りかかった。


 「おはよう、ノーラ。朝からご苦労様。馬の調子はどうかな?」

 「この子たちはいいんですが、今キャンプ地にいる二頭が下痢気味です。何か変な物を食べたのかもしれません」


 ノーラはカールが手にしている大きな羽に目を移した。


 「それは、コロック鳥の羽ですね。島の北側にいるのは珍しいです」


 島育ちのノーラは一目で羽の持ち主が分かったらしい。コロック鳥は小さな小屋程の大きさがある鳥型の怪物で、ヤギや羊などの家畜を足で鷲掴みにして攫っていく。カールも冒険者時代、開拓民に依頼され何度か戦ったことがあったがかなり手強い相手だった。


 「襲ってこなければいいね。剣一本で戦うには少し分が悪いから」

 「コロック鳥は基本的に憶病ですから大丈夫ですよ。それに、魚を食べているとは聞かないのでこの辺りまで来ることは無いと思います。この湖の水源はあの岩山のようですから、落ちた羽が水の流れに乗ってここまで流れてきたんでしょう。ああ、あそこを飛んでいますね」

 「どこだ」

 「あの岩山に三つの尖りがありますよね。左端の尖がりの上空に黒い影が見えませんか? ここから見えるということはかなり大型の鳥ですから、あれがコロック鳥だと思いますよ」


 カールは羽を水面に戻すと遠くに見える岩山に目を向けた。ノーラに言われた通りの場所を見るが、何も見えない。


 「だめだ、私には見えない」

 「先ほど岩の影に降りていきました。まあ、この距離なら問題はないと思いますよ。こちらに来る事はないでしょうし」

 「そう願うよ。これ以上怪物と戦いたくないからね」

 「私もそれがいいです」


 それからカールはノーラと別れてキャンプ地に戻った。モナは先ほどと同じ鼻歌を歌っていた。曲名を聞いてみると、マルデル賛歌第八番という聞いたことのない曲だった。朝食ができるまでしばらくかかるということだったので、カールははテントに戻り、今日の探索の準備を始めた。

 宝石蝶の採集用に持って来た道具をテントの中に並べる。宝石蝶を捕るための虫取り網、捕まえた蝶を入れるための籠、どれも組み立て式になっており、丈夫なケースに収納されていた。カールはまず、虫取り網を組み立てた。筒状のケールから部品を出し、ねじが着いた木の棒を五本つなげて竿の部分を作る。それから、弾力性のある細い金属の棒を丸く曲げながら網をつけ、最後に丸くなり網のついた金属の輪を竿に固定する。これで虫取り網が完成だ。

 次にカールは木製の箱を開け、中から折りたたまれた虫かごを取り出した。こちらは長方形の箱が板状に折りたたまれた状態になっているだけなので、ふたの部分を持ち上げ籠の形にし、可動部分にロックをかければ完成だ。

 さらに、捕獲した蝶を入れるための三角形のロウを塗った紙を三角形に折った入れ物をいくつか荷物からだし、探索用の肩掛け鞄に入れ直す。一応、宝石だけを取り出した時のために厚めの布でできた袋も用意する。他にも宝石蝶を捕まえるための餌や罠を用意し、それぞれ探索用の肩掛け鞄に詰めた。

 宝石蝶を捕まえる準備を終えたカールは、道具を持ってテントの外に出た。かまどの周りには先ほどまで寝ていたミアミを含め全員がそろっている。


 「カビル卿、おはようございます」


 四人を代表してアニーが挨拶をする。先ほどまで素振りをしていたからか、顔は少しだけ上気していた。既に完全武装で鎧を身に着け、腰には剣を下げている。その横で、モナが五人分の器にスープをよそっていた。中に入っている見慣れない緑色の塊がノーラが採ってきたという野草なのだろう。

 カールがアニーに挨拶を返すと、モナがスープの入った器にとパンを持ってきた。


 「どうぞ、カールさんの分です」

 「ありがとう」


 カールは礼を言うと、かまどを囲むように置かれていた平たい石の一つに腰かける。その隣にモナが座る。

 輝きの湖は、十四年前に宝石蝶の採取場所として多くの冒険者が訪れていた。その当時に建てられた木製の小屋や桟橋は既に朽ち果てていたが、石でできた調理用のかまどや、腰かけなどはまだ使える状態にあった。

 朝食を食べながら、カールはこれからの動きを確認する。


 「いよいよこれから宝石蝶の探索だ。まずは半時計周りに湖の周りをまわってみようと思う。宝石蝶も蝶だから、あちらの草地か反対側の森の中にいると思う」

 「ぱっと見、宝石蝶みたいなのは飛んでいませんね。ノーラ、何か見える?」


 モナが固いパンをスープに浸しながら湖の方を見た。ノーラもスープの器をテーブル代わりの石に置き目を凝らす。


 「普通の蝶っぽいのが何匹か。宝石蝶って遠くからみてもわかるんでしょうか」

 「文献によると太陽の光を反射して宝石部分が光って見えたそうだよ。何か光るものは見えるかな」

 「……いえ。水面以外に光を反射するものは見えません」

 「そうか。まあ、すぐに見つかるとは思っていないよ。本当にいるかも怪しいからね」

 「カビル卿、冒険に弱気は禁物です。見つかると思えばきっと見つかりますよ」


 珍しく、アニーが前向きにカールを励ました。アブロテンの戦いの後から、アニーのカールに対する態度はずいぶんと柔らかくなっていた。もちろんカールも礼儀作法や話し方について文句を言われ続けるよりこちらの方がいい。

 食事を終えたミアミが食器を置き、アニーに声をかけた。


 「アニー相談なのだけど、できれば私はここに残りたい」

 「もちろん、誰かをキャンプに残すつもりではいるけれど、何か理由があるの」

 「あの子たちの調子が悪いみたいだから薬草でも作って飲ませようと思う。この辺りは面白い草がいくつか生えているから」


 そう言って、ミアミはテントから少し離れた所に繋がれている馬を見た。昨日輝きの湖に到着した頃から、二頭の様子が少し悪そうなことはカールも気がついていた。


 「わかった。それではカビル卿と私、それとノーラで蝶を探しに行き、ミアミとモナはこのキャンプに残ってもらう、それでどう?」

 「え、どうして私が居残り組!?」

 「湖の周りは湿地だし、このキャンプ跡地以外は草が生えていて歩くのも大変よ。あなたはそういうところは嫌いじゃなかった?」

 「泥まみれになるのはイヤ。でもカールさんと離れるのはもっとイヤ!」

 「……と言っていますが、どうしますかカビル卿?」

 

 蝶の探索にノーラは必要だ。島の北側出身の彼女はこの辺りの自然に活動に詳しいし、元狩人のため戦闘を重視しがちな冒険者よりも探索向きの知識を色々と持っている。アニーはリーダーとして、また怪物が出た時の護衛として雇い主の傍にいると主張して同行するだろう。ミアミは、肉体的には四人の中で一番非力そうだし屋外での活動が得意とも思えない。とはいっても、アブロテンではノーラやモナ以上に戦いに参加していたので、キャンプに残りこの辺りに出るかもしれない小さな怪物や狼を相手にするくらい問題ないだろう。問題のモナは、治癒魔法が使えるので宝石蝶の捜索に加わった方がいいような気がした。もし怪我をしたとき、モナのいる、いないは大きな違いになる。

 

 「まあ、私は同行してもらった方がいいと思う。モナがいれば怪我人が出ても捜索を続けられる」


 その言葉を聞き、モナは嬉しそうに、アニーとノーラは微妙な顔をした。ミアミが小声で、「そういうことをするから被害者が増える」と呟く。アニーがモナを外したのは、これ以上モナがカールに入れ込ませないためだろう。しかしカールとしては、モナの気持ち云々よりも宝石蝶の捕獲を優先したい気持ちが勝っていた。湖に留まるのは最長で三日の予定だった。実際は、既にアブロテンで一日余分に使っているため二日しかない。数日の遅れは許容範囲とは言え、伝説になってしまった宝石蝶を見つけるために十分な時間があるとはいえなかった。


 「カビル卿がそうおっしゃるのなら」


 アニーは嘆息しながら、残る事になったミアミに細かな指示を与えていた。


 「もし緊急事態が起きたら、黄色い煙幕で知らせて。定期的にキャンプの方を確認するようにする。ここから逃げることになったら赤い煙幕を。合流地点は昨晩のキャンプ地でいい?」

 「わかった。そっちも同じように何かあったら私に知らせて」


 ミアミは自分の荷物から二つの球体を取り出しアニーに渡した。それぞれ赤と黄色の塗料で印がつけられている。アブロテンでも使っていたが、加熱することで煙幕を出せる道具らしい。


 「アニー、ちょっといいですか」

 「どうしたのノーラ?」

 「今日の夜か、明日、少し天気が荒れると思います。山に雲が少し掛かっています。あと、今朝ですが遠くで雷が聞こえた気がします」

 「雨が降るの?」

 「多分。山の天気は変わりやすいから確実じゃありませんが」

 「わかった。カビル卿、今日の探索は少し早めに切り上げるということでよろしいでしょうか」

 「かまわないよ。この湖は一周するだけなら多分半日もかからない。取りあえず今日は蝶を探しながら周囲を一周して、夕方前二時間前にはキャンプ地に戻ってこよう」


 支度を終えたカールたちは、ミアミをキャンプ地に残して宝石蝶の捜索を開始した。先頭にノーラ、その後ろに採取用の道具を肩駆け鞄に入れ、虫取り網を持ったカール、その横に虫かごや他の道具、昼食を背負ったモナがおり、最後尾はアニーだった。モナは一度外されかけたからか、進んで荷物持ちを引き受けておりカールの剣もモナが背負っていた。

 湖の周りは低い草の生えた開けた部分、森が水辺まで迫っている部分、小石などが多い岸部などいくつかの部分があった。カール達のキャンプ地から見ると、右手側が草地、正面に岸、左手側が森になっていた。カールたちはまず右手側の草地に移動し宝石蝶の捜索を開始した。


 「言い伝えでは、湖の周りを乱舞してたらしい。先ほどのキャンプ地から、湖面の上を飛ぶ宝石蝶を眺めたという記録がある。でも、あそこを飛んでいるのは普通の蝶だよね」

 「普通の蝶ですね。私の故郷の村でも同じ蝶を良くみかけました」


 キャンプ地から少し離れた場所でカールはノーラと並んで周囲を見渡していた。周囲には足首くらいの高さの若い草が生い茂り、所々で黄色や赤色をした花が咲いていた。その花の上を白や斑模様の蝶が何種類か飛んでいた。


 「宝石蝶はどれくらいの大きさなんですか」

 「大人の女性の両手くらいの大きさがあったらしい。羽に大きな赤い宝石を持っているから、一目でわかるそうだけれど」 

 「見当たりませんね。花に集まっている蝶は普通の蝶ですし、それだけ大型なら一目で気がつきますね」


 ノーラの言う通り、飛んでいる蝶はどれも小さく、羽に宝石を持つものはいない。


 「念のため、一匹捕まえてみる」


 カールは網を構えると、近くを飛んでいた白い蝶に向けて振った。あっさりと蝶は網に捕らわれる。カールは網を回転させ、中に白い蝶を閉じ込めた。ノーラが薄い網越しに中の蝶を確認する。


 「やっぱり普通の蝶ですね。これならヘルメサンドでも飛んでます」

 「成長中の宝石蝶だったらよかったのでけれどね

 「普通の蝶は浮かしてから大きさは変わりませんよ」

 「それもそうか」

 

 カールは自分の目で一応の確認をした後、蝶を網から解放した。白い蝶は慌てたようにカールたちから離れていった。カールは近くでモナが地面に屈み、花の蜜を吸っている蝶をじっと見つめていた。

 

 「モナ、宝石蝶の宝石には魔法の力が宿っていたと言われている。何か、魔法的なものは感じないか?」

 「私は感知の奇跡は使えないんですよ。あ、もし宝石蝶が羽にある宝石の力で動飛んでいるなら。花の蜜とか吸わないかもしれませんね」

 「確かにそうかもしれないな。そうだと少し困るが、確かめたいことがある」


 カールは肩掛け鞄からいくつかの道具を取り出した。小瓶と小皿を三つずつ、赤、黄、青、白の色を塗った四色の板だ。


 「それはなんですか?」

 「新大陸で昆虫採集をした学者の本に書いてあった。蝶を集める罠だそうだ」


 カールは小瓶の中身を少しずつ、小皿に出し、三枚の皿をモナ、ノーラ、アニーの三人に渡す。


 「お互いに少し離れた所にその皿を置いて、しばらく様子を見てくれないか?」

 「何か、甘いようなお酒の匂いがしまね」

 

 アニーは手にした皿に顔を近づけ匂いを嗅いだ。


 「それは果実酒だよ。ノーラのものは果物をすりつぶしたものだ。モナのは」

 「カールさん、これすごく嫌な匂いがするんですけど」

 「馬の小水だ」

 「!?」


 モナは皿を放り投げようとし、思いとどまる。


 「甘い香りや動物の排泄物によって来る蝶もいるそうだから」

 「なぜ私に!?」

 「モナの事を信頼しているからだよ。さあ、それぞれ散らばって宝石蝶が集まるか様子を見て欲しい。私はこの色のついた板を並べて蝶がよって来るか見てみる」

 「何か扱いが悪くなっている気がする……」


 モナは文句を言いつつ、言われた通りに少し離れた草むらの中に皿を置き、さらにそこから離れた所に陣取り観察を始めた。アニーとノーラもそれぞれ皿を地面に設置する。カールは三人が一度に見える位置に移動し、地面に色付きの板を並べた。


 「さて、これで宝石蝶が来ればいいんだが」


 カールの期待は、しかし虚しく裏切られた。白い蝶や蛾、他の虫は集まって来たが三十分程たっても宝石蝶はどこからも現れなかった。

 カールは全員に声をかけると、皿の中身を再び瓶に戻し、皿を湖の水で洗うと先に向かって進んだ。周囲を観察しながら草地を歩き、二時間ほどかけてゆっくりと湖を半周し、キャンプ地の対岸に辿り着いた。


そこは小石や砂でできた湖岸で草は疎らで花や木はほとんど見当たらない。草地と違って蝶の姿はほとんどなく羽虫などが飛んでいる程度だった。


 「ここにも、いませんね」


 捜索に飽き始めたらしく、モナが気だるそうに足元の石を蹴飛ばす。石は地面を転がり、湖の中に落ちた。


 「この辺は人が来ていた跡も少ないですね。キャンプ地には小屋の土台とか馬小屋の残骸とか、色々あったのですが。それに、怪物もいなさそうです」


 アニーが一応周囲を警戒していたが、危険は無さそうだった。人がいた形跡がないということは、十四年前ですらこの辺りに宝石蝶がいなかった可能性がある。


 「カール様、あれを」


 ノーラが空の一点を指差した。目を凝らしてみると黒い鳥がゆっくりと岩山の上を旋回している。


 「今朝のコロック鳥です。おそらく獲物を探しているんだと思います」

 「こっちに来られると厄介だな」

 「この湖の周りはせいぜいウサギくらいしかいませんから大丈夫だと思います。あれだけの大きさです。大型の動物を捕まえなければお腹もふくれないでしょうから」

 「あ、カールさん、私聞いた事あります。コロック鳥は魔法を宿した生き物を好んで食べるって」


 得意そうにモナが言った。それを聞いたアニーが首を傾げる。


 「つまり、コロック鳥がここにいないということは、この湖に魔法を宿した生き物がいないということになるの?」

 「うーん、どうかな。そもそもコロック鳥が宝石蝶を食べるのか分からないし、大きさが違いすぎるからお腹の足しにはならないんじゃない? あ、でも魔法的なものでならお腹いっぱいになるかも。ポーションを飲んでもお腹は膨れないけど、奇跡の力は戻ってくるから」

 「ではどのみち望み薄か」

 「私が調べた限りだが、過去にコロック鳥が宝石蝶を食べていたという話はなかったな。もしそうなら、あのキャンプ地はもっと頑丈に作られたはずだ」

 「確かに、コロック鳥は手強い相手です。ある程度戦えない冒険者でないと対処は厳しいですね。腕がなります」

 「……」


 アニーの中では既にコロック鳥と戦うことになっているらしい。カールはできればこれ以上の不要な戦闘は避けたかった。

 「カール様、そもそもコロック鳥は最近まで島の南側にしかいない怪物でした。あの怪物が宝石蝶を見つけた時、どうするかはわかりませんので一応警戒をしてください」


 カールは頷くと、もう一度岩山の上を見た。そこに既に鳥型の怪物の姿は無かった。無事に獲物を見つけることができたのだろうか。

 他の三人の注意が空に向いている中、モナは大きな岩を見つけ、その上に荷物を下ろしていた。


 「みんな、少し早いけど昼食にしませんか?」


 カールたちはモナの提案に従い、探索を中断することにした。

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