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鬼ヶ島『シタロ山』。
ここに「鈴」という女の鬼がいました。
彼女は入伸的な記憶力を持っていました。一度見たものは忘れない、どんな細かいことも鮮明に覚えることができました。
人間でいう十五の時、家族で遠出した先の風景をすみかの壁に描写したことをキッカケに彼女は自分の才能を実感してしまいした。それまで彼女はみんなも普通にできると思っていました。ですが周りの反応は思っていたものとかけ離れすぎていました。親は彼女の絵に驚き、惚れ、賞賛しました。こんな素晴らしい才能を黙っておくわけがありません。近所の鬼たちに自慢し、みんなが褒めてくれました。誰も持ってない才能、彼女にしか出来ない芸、そんな優越感の味に酔うキッカケになったのもこの時からでした。
彼女の絵の噂はたちまち島中に広がり、見物鬼がやってくるようになりました。彼らは感嘆の表情を浮かべました。こんな素晴らしい絵は見たことない、誰もが思いました。
しかし、彼らは絵だけを見に来たのではありません。本当は鈴に会うのが目的でした。彼女の容姿は誰もが惚れ込む美しさだったのです。
鬼はみな、彼女を欲しがりました。中には鈴に婚約の申し出をする者までいたそうです。
もちろん彼女の噂は「団子」の耳にも入っていました。
彼女の容姿に惚れたのか、才能に惚れたのか、誰かに取られまいと急ぎ足で鈴の親の元へ向かい「是非」と申しましたが、まだ子供だということで呆気なしに断られてしまいました。
それからしばらくして彼女の別の噂が広まり始めました。
それは彼女があらゆる生物に化けることができるという噂でした。
ある時は犬、またある時には猿、またある時はキジにも化けられる、化けた姿で民家を襲い窃盗を繰り返していた、なんてことも言われておりました。もちろん、証拠なんてありません。噂でしかなかったのです。でも噂だけでは収められない理由がありました。
なぜなら鬼ヶ島には、犬も猿もキジも存在しないのです。そして今までだれもそれらの生き物をその目で見たことがなかったのです。だからと言って鬼以外の生き物がいないということではありません。牛や豚、いろんな生き物はいますし魚も採れます。
ただ犬、猿、キジは伝説の生物として知られていました。昔から時々、『見た』という声もありましたが、注目を集めたい子供の悪戯が大半を占めていました。みんな空想上の生物だと思っていたのです。だから伝説の生物を見たと噂が出た時は、また誰かが馬鹿なこと言ってるな、と聞き流していました。
ですが、今回は少し様子が違いました。島のあちこちで、しかも短期間で数え切れないほどの声があがり、さすがに嘘だと言えないのではないか、という空気が漂っていました。
もっと不可解なのは、伝説の生物が目撃されると鈴も目撃されるのです。これもひとつやふたつではなく、島のあちこちで、しかも短期間で数え切れないほどの『見た』という声があがったのです。
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