きびだんご

浮遊

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昔むかし、いや、四十年くらい前、一つ食べれば十鬼力、二つ食べれば百鬼力、三つ食べれば千鬼力の「きびだんご」というだんごが作られました。

きびだんごは鬼が島に住む十人の鬼(十鬼)によって作られました。彼らは「十鬼の天才」と呼ばれ、島中の鬼たちから一目置かれる存在として知れ渡りました。

きびだんごを作るには途轍もない時間と労力がかかりました。

きびだんごが生まれたのは奇跡と言っても過言ではありませんでした。

数十種類の植物を使い、更に、配合の割合も熱し方も煮方も一つ一つ違う、成功するとは限らない研究を十年続けてやっと成功したのです。

特別なものは奇跡が起こらないと生み出すことは出来ないということを、このきびだんごの製作を通して鬼たちの心に沁みつきました。

鬼たちが当時持っていた知力・運を尽くし初めて達成した成果が「きびだんご」でした。

きびだんごは元気が無くなった時の栄養剤として、役割を担っていました。

美味しいのに力が出るきびだんごは、他の食べ物なんて足元にも及ばないほど好まれました。「良薬口に苦し」と言われていますが、きびだんごは例外。高くて当然、こんな魔法みたいな食べ物が安かったら逆におかしい、なんて思っていました。

ですが、他の食べ物同様、きびだんごにも消費期限があります。作られてから一日。夜が明けると腐って食べられなくなってしまいます。

高級品でもあったので、だれでも食べられるというわけではありませんでしたし、他の食べ物と比べて持ちも良くない。それでも鬼たちからの支持は絶えませんでした。

「十鬼の天才」は悪用されないために、材料・製造過程・製造方法についてを一切の秘密とし、きびだんごに関する資料は厳重に保管しました。

それ以外にも「十鬼の天才」は後釜で何か不都合が起こらないようにあらゆる制度をしき、最後に彼ら組織を「団子」と名付け、後継者に受け継ぎ引退をしました。

全員弱冠三十歳という若さでした。

それから三十年変わらず鬼は十鬼のまま。

「十鬼の天才」に倣い、製造・運営を行っており、年に一度「きびだんご会議」を開いていました。

「きびだんご会議」とは、メンバーの引退・追加・継続、きびだんごに関する事件・事故の確認、それにおける改善・対策、きびだんごと物々交換で手に入れたモノや宝石の集計、次年のきびだんごの製造量、それにおけるシフトの割り当て、取引対象物の変更、商品改良のための予算などを話し合う会議です。もちろんこの会議も「十鬼の天才」によって作られた制度です。

この会議は人間の世界でいうところの二月末の一週間をかけて行っており、現メンバーだけで全てをこなさなければならず、この一週間前後の慌ただしさは尋常ではありません。

そのため二月に入るときびだんごの製造はストップして、資料の作成に勤しみます。

多くの鬼は農業を営んでおり、作物の育たない期間にきびだんごは必要ありません。加味し、作物の育たない時期に合わせるように会議を開いていました。

「きびだんご会議」が一段落すると「団子」にこれまで関わった鬼たちが集まり、飲み会を開いては昔を懐かしんで騒いでいました。

彼らは強い絆で結ばれており、辞めた鬼もきびだんごに関する話は誰にもしたことはありません。

そして、きびだんごが生まれて四十年の間は一度も外部に情報が漏れることはありませんでした。

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