第七回『公園が舞台の協力する話。ワードは「外郭」』

「帰ったらいつもの公園な!」

「うん!」

僕達は学校が終わったら、いつも公園で遊びに行っていた。公園で遊ぶ、と言っても正確には「公園に集合して持ってきたゲームで遊ぶ」だったけれど。どっちかの家じゃなくてわざわざ公園に集まるのは、親の目が届かない場所でゲームするためだ。僕の母さんはゲームは悪い影響を与えるって信じてるし、あっちの親は禁止こそしないけど、宿題やれやれ五月蝿くて集中できないらしい。

そんなわけで、僕は家に帰ったらランドセルをぶん投げてそのまま玄関へUターンして外に出た。いま流行りのスマホゲームで遊ぶために。


公園に着くと、あいつはまだ来てなかった。仕方ないからいつものベンチで先にログインして待つことにした。

いま流行りのゲームは、簡単に言えばプレイヤー達が協力して城を攻略するジャンルのもので、オンラインでランダムにチームが決められる。このゲームにはジョブが三つあって、それぞれの役目を果たしながら攻略していくのだけど……正直、アタッカーが強すぎてバランスは崩壊気味な気がする。

その証拠にマッチングの8割がアタッカーという分布率らしく、1ゲーム4人で協力するゲームなのにアタッカー×4のマッチングなんてのも珍しくない。残り2割のディフェンダーかサポータが一人混ざることが時々あるって感じだから、やっぱりバランスは取れてないと思う。

かくいう僕もアタッカーを使っていて、いつも通りアタッカーを選んでランダムマッチに潜り込んだ。まだ来ない友達が到着する間、一戦くらい出来るかな。なんて思った矢先、マッチングが成立した。流石いま人気のゲーム、人がたくさんいる。さて、今回のメンツは……


アタッカー

アタッカー(僕)

サポーター

ディフェンダー


「……まじかよ」


一見普通のマッチングに見えるのだが、思わず声が出た。

現状ではこの組み合わせの方が珍しいというのもあるが、今回選択したステージは敵の防御がやたらと硬いことで有名なのだ。このステージの存在がアタッカー×4の環境を生み出していると言ってもいいくらいに。

こういうとき、プレイヤーのタイプとしては二種類に分かれる。不利な状況でも自分の役割を果たしてクリアを目指すタイプと、事故と見限って最低限だけプレイしてさっさと次へ以降するタイプ。簡単に言えば頑張るか否かって話だけど、僕はだいたい頑張らないタイプだったし、今回もその方向でいく気満々だった。


しかし、プレイスタートしたら、まったく違う展開が待っていた。


アタッカー(僕じゃない方)が外郭に一撃を入れた瞬間、画面に「excellent!」の文字がデカデカと浮かんで、城が崩壊してしまったのだ。

思わず「え?」って声が出た。何が起きたかわからなかった。

そのままゲームは終わってリザルト画面までいったところで、ある仕様を思い出した。


「外郭のある一部分はランダムで急所となっており、そこを攻撃できた瞬間、城が崩壊しゲームクリアとなる」


この「ランダムな一部分」というのがくせ者で、一見これをみんなで探した方が効率がよさそうだけど、その一点とは文字通り「外郭を構成する全ドットからランダムに1ドット分」であり、これを一点のみ正確に撃たなければならないのだ。数分という時間制限の中ではあまりにも非現実的な仕様のため誰もやる人がいなかったのだが……僕は今日、初めてその一点を一発で撃ち抜いた人を見た。


「おまたせ!遅くなってごめんな!」

約束より一試合分遅れて、聞き慣れた声がした。はっとして振り返り、思わず一度ゲームからログアウトしてしまった。

「おせぇよー、はやくやろうぜ」

「おう!また二人で本殿ガリガリ攻めような!」

その言葉に、僕の耳はピクリと動いた。以前だったら「もちろん!」と返して、馬鹿の一つ覚えに二人で本殿ガン攻めしてたのだろうけど……。

「なぁ、今日はちょっと趣向を変えてみようぜ」

あんな浪漫を見せられて、やりたくならないわけがなかった。


結局その後は一度も外郭の急所を探し当てられず、相方は飽きて本殿ガン攻めに戻ってしまったけれど、僕はいつまでも外郭を叩きまくっていた。

僕もいつか、あの時の爽快感を味わってみたい。

もしかしたら、これもゲームの醍醐味なのかもしれない。


(おわり)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

九十九紙 りろ・だは~か @liLoVinale

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ