だから俺もお前もモテないんだよ!

じてん社長べんり

第1話

-プロローグ-


「ママ!おとなになるほうほうってなーに?」


これは確か、小2くらいの頃の記憶だ。ちょうどドラえもんの1時間スペシャルがあっ


て、幼い僕はこれに影響されたんだと思う。


「うーん、それはねぇ」


料理を作る手はとめないまま、僕の一見深いように見えてものすごく浅い質問に答え


ているのは近所で美魔女と評判の母だ。


夕飯を作っている途中で僕が話しかけたら、いつもは子供の僕でも分かるような不機


嫌になるのに、その日は笑顔で答えている。


その理由は、やはり久し振りに父が帰ってくるからだろうか。


「ゆうくんはらんぽーのチョコケーキが好きでしょ?」


『らんぽー』は近所のケーキ屋さんだ。


誕生日やクリスマスと言った特別な日は、僕は決まってここのチョコケーキを食べて


いた。なぜチョコケーキだったかと言うと、普通のケーキよりもチョコケーキの方が


お得感があったからだ。


「うん!だいすき!」


「でも、コーヒーは嫌いでしょ?」


「うん…だいきらい」


小学校入学のお祝いで、祖父に勧められて飲んだコーヒーは、想像を絶する苦さで、


幼いながらにトラウマを植え付けられたのだ。


「そのどっちもを好きになれたときが、大人になるってことじゃないかな」


そう言って母はまた料理に専念し始めた。


正直、僕には言ってることがよく分からなかったが、とりあえず「おとなになれない


かも…」と思った。


そしてさっきまでと同じようにぼくはピーチ姫を救う冒険へ、母は久しぶりの豪華な


料理作りへと、各々のしたいこと、することを再開した。



父の帰りを楽しみにしながら。




その日、父が帰ってくることはなかった。というか、二度と帰ってくることはなかっ


た。



1


何かに引っ張られるように意識が覚醒し、知性が戻ってくると、そこはバスの後部座


席だった。


さっきまで見ていた夢が記憶から薄れていくのを感じながら、手に持っていたスマホ


をなんとなく見ると、「4/7 7:26」と記されてした。まあ、今日は入学式ってこと


だ。僕は今日から新一年生としてこの私立に通うのだ。


だが、はっきり言ってだるい。主観的にも客観的にも僕は決して陽なたでウェーイ


wwwってするタイプじゃないし、陰でデュフデュフいうわけでもない。つまり特定


層の学生と約束された友情が結べることはなく、地道に気の合う友達を見つけないと


いけないわけだ。


「自己紹介で「24歳、学生」ってワードさえ出せば、ある程度の知名度と人気は手に


入るかもしれないな…。」


とか思ってたら、どうやらバス停に着いたらしい。


バスを降りて校舎への坂道を見ると、なるほど、桜並木が連なっていて、なかなか感


慨深い景色だった。


おそらく、大半の新入生はこの景観の壮大さと自身の高校生活の明るさを重ねて希望


を持つのだろう。ぼくも例に漏れず、少し高揚した気持ちになった。


だが、「一度経験している身から言わせれば」理想的な高校生活を送るのは、ほんの


限られた人間だけだ。大半は「僕がそうだったように」青春ドラマは存在せず、普通


の変わりばえのない平凡な日常を送っているうちに、3年間が消えていくのだ。



大人になんか、なれないまま。



今からの未来に軽く絶望して気だるげに、実際、かなりめんどくさがりながら坂道を


歩いていると、目の前に人だかりができていた。


好奇心に煽られ、そこに近づいてみると、中心には天使がいた。



天使が立っていた。



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