たった七日の一人戦争

猫部猫

最後の日

無理だった。

無力だった。

強くはなかった。

助けたかった。

助けられなかった。

守りたかった。

護れなかった。


楽しい。

苦しい。

悲しい。

憎らしい。

愛らしい。

愛おしい。

怒り。

嘆き。

美しい。

嬉しい。


幸せ。



「…あー…ちゃん…」


あーちゃん、僕は


「ぼ、く…は………」


君に出会えて


「…き、きぃ…み、にでぁ………え…て」


「し、しぁ…………」





“幸せ”…でしたよ。




あーちゃん、ミケさん、レンさん、メグミさん、ニャンコさん、フェレンさん……。


皆さん。


どうやら僕は…ここまでみたいです。


ミケさん…楽しい話をありがとう。

レンさん…技をありがとう。

メグミさん…お料理とても美味しかったです。

ニャンコさん…騒がしさをありがとう。

フェレンさん…武器をありがとう。


あーちゃん……感情をありがとう。


そして、ごめんね。


約束…守れなかった。



君達が死んでから、僕は沢山殺したんだ。


でも減らなかった。


世界を取り戻す事は僕一人には出来なかった。


たぶん…もう誰も生きてはいないだろう。


世界は化物に蹂躙されてしまった様だ。


フェレンさんに鍛えてもらった最後の武器は二日前に壊れてしまった。



《レーティア》も尽きてしまった。


《回復薬》も《回復結晶》も三日前に尽きた。


今 《宝物庫》にあるのは《〈帰路〉転移石》と《転移石》と使えなくなった《魔弾》の数々。


あぁ…そう言えば。

あの時、あーちゃんから貰った手紙があったんだっけ。

ごめんね。

読んでないや…。

君が死んでそれどころじゃあなかったから。


……………。


あーちゃん…君の手紙、読みたいなぁ。



   腕があれば



もしくは、数時間前だったら

それの事をもっと早くに思い出せていたら…


そんな事考えても仕方の無いことなのにね。


時間は戻らない《固有魔法》でもそれは不可能。



…………。



痛い…

熱い…

疼く…

苦しい…

クルシイ…


血の臭い

血の味



これが…生きているって事…。


僕が、生きてきた証。



血の匂い

鉄の味



心臓の鼓動が弱くなる。

心臓の鼓動が強くなる。




………。




……稼働不能。

……生命活動低下中。


Error Error Error Error


……思考回路スキャン…Yellow


……言語機能スキャン…Error

……言語機能Purge


……聴覚回路スキャン…Red


……視覚回路スキャン…Yellow


……触覚回路スキャン…Yellow


……損傷箇所スキャン…左眼無し。両腕無し。左体幹二割消失。内出血多数。出血多数。


……残りレーティア量スキャン…0%


……修復不可能


……死亡確定。



……。



ははっ…そんなの分かってるよ…


……理解不能。何故笑う。


何でだろうね…なんでかな…。


……理解不能。


ただ…君のその感じが懐かしかった。


……は私である。の“懐かしさ”は私には理解不能。


いいよ、は僕。僕は


……理解。認識済み。


へぇ…君がねぇ…。


……だけでは無い。私も影響を受けている。を承認するに私は不要であるはずだった。だがは私を承認した。ならば私もを承認するしかない。


そう…君は認めてくれていたんだね…。


……感情など不要。有っては戦闘に障る。


でも君は感情と言うを認めた…それはなぜ?それなりな理由が有ると思うんだけど?


…………。


黙秘する気かい?


……否定。…私は感情など不要。そう設定されていた。だが、不要であって無い訳ではなかった。


うん、そうだね。それが僕だもの。


……アリサが死亡し私はErrorを起こした。不要であった感情が暴走し、『感情不要』にErrorがかかってしまった。


それは…なぜだと思う?


……それは…理解不能…。


ありゃ…


……だが、“例えば”私は悲しかったのだ。寂しいと感じたのだ。泣きたいと思ったのだ。


“例えば”…ねぇ…解っているじゃないか。まったくその通りだよ。

あーちゃんが死んで君は嘆いた。

いや、嘆いたのは僕の方かも…。



無表情、無感情ではいられなかった。

あーちゃんの死体を見て君は

感情を羨んだ。

他の皆さんの様に


恨んだり

なげいたり

泣いたり


大声を発したかった。

 

君は……僕は皆さんの様人間になりたかった。



……そうだ、私は人間になりたかった。

アリサとの約束を果たす為。



でも…その約束は果たせない。

君も分かっているだろう?


……今や思念のみ、体は虫の息。残り生命活動時間約1時間。


周囲に敵の気配無し…


……聴覚回路Error

……聴覚回路Purge


あーあ…周りの音、聴こえなくなっちゃった…。


……生命活動時間5分延長。

……問う。延長する意味はあるのか?


さぁ…ね。それが僕のシステムだから…僕にも君にも分からない事だと思うよ。


……。


でも…そうだね…僕達は……生きたいと思ってるんじゃないかな…。


………感情回路…Red。

……説明を求む。


説明なんて……いらないでしょ…。そのままの、意味だよ…。

君は、昔から生きる意味を見いだせて…なかった…。

でも…変わった…。

君は…たすけたいとおもった…。

君は…たすけられなかったことを“こうかい”した…。

キミは…生きて…いき…て、そのこうかいを…かなしみを…つぐないたかった……。


き、きみ…は……ぼ、くは…ひと、を…あ…あい……あいして……いた……。


……愛して…いた…?私が…人を…?


うん……ぼく、た……ちは…ひとを…愛せ…たんだ……。


……そうか…それは“悲しい事”だな。


そs、uぅう…だね……。


……感情回路…Error。

……、…ありがとう。


u…u、うn…bぼoくくく…も━━


……感情回路…Purge。




…。




私は…感情は…は……。



いつかの記憶。

私が生まれた記憶。

私は人からは産まれていない。

私は薄暗い研究室の実験機関から生み出された。


敵と戦う為。

敵を殺す為。

敵を駆逐する為。

千切る為。

斬る為。

潰す為。

強靭な肉体を。

屈強な肉体を。

柔軟な肉体を。

素早い肉体を。


数々の失敗を繰り返して成功体が産まれた。


何も分からなかった。

何も解らなかった。

何も判らなかった。

それは、『恐怖』だったのだ。


だから殺した。


恐怖を取り除く為。


『産みの親』とでも言うべき彼等を私は殺した。


殺す為の存在。

そんな事簡単だった。


薄暗い研究室が赤色に染まった。

赤い足跡を残しながらその部屋から出た。

廊下を歩いた。

本が沢山ある部屋に辿り着いた。

1冊を手に取った。

分厚い本だった。

適当に開き読もうとした。

だが、読めなかった。

だから学習した。

棚の本を全てだし、全ての本を全ての言葉を歴史を学習した。


この世界の状況も理解した。


武器を探した。

敵を探した。

武器を手にした。

敵を見つけた。

武器を使った。

敵と戦った。

武器を壊した。

敵を殺した。


何も感じなかった。

恐怖などこの時既に感じなくなっていた。

恐らくそう設定されていたのだろう。


敵を殺せ。


だから殺した。


一体殺した。

十体殺した。

百体殺した。

千体殺した。

一万以上殺した。


この廃れた世界でただ殺した。


技を学び、技を磨いた。


以前より楽に。

以前より上手く。

以前より匠に。


睡眠を取っているときも殺せる様に鍛えた。


そうしているうちに、あの場所でアリサ達に出会った……。



…。 




わかる…私の口角が上がっているのだ。

そうか…そうか。


…そうか……。


私は…いや、“私も”楽しかったのだろう。

幸せだったのだろう。

愛していたのだろう。


あぁ…惜しい……


アリサ…私がこの感情にもっと早く気付いていれば…きっと…。



何と皮肉なことか…最後の顔が笑顔だとは…。


あぁ…だが、理解した。

理解したぞ…



これが人。

これが感情

これが…



感情回路無くして感情があるなど人と言わずに何と言う!


これが偽りの物でも構わない。


私は感情を手に入れたのだ!


見たか

聞いたか


…アリサ!!



私は最後の最後に人になったぞ!


………。



………あぁ、穏やかだ…。


今になってあの記憶が眩しい。

皆といた…あの空間が…。


記憶に語り掛ける。


返答は無い。


記憶に手を伸ばす。


掴んではくれない。


走馬灯に何をしているのだ…。

何を求めているのだ…。


…。



だが……もし叶うなら……この伸ばした手を━━━。





〈掴んで欲しいの?〉


…━━━!!


〈ふふっ♪……迎えに来たよ〉


…アリ…サ…。


〈なにぃ〜?その顔ー…折角人が迎えに来たっていうのにぃ…〉


…ふっ…アッハハハ!


〈なんで笑うのさ!〉


…はぁー…いや、君は相変わらずで安心したよ


〈……そうだね…そう言う君は……随分と変わったみたいだね〉


…ああ、君との約束の一つを私は守ることが出来た。


〈……うん、解ってるよ。ずーーっと見てたもの〉


…でも、済まない……同時に約束を破ってしまった。


〈………〉


…敵を皆殺しにして世界を取り戻す事は出来なかった。


〈……約束を破るだなんて酷いなぁ〜〉


…す、すまない……。


〈じゃあ、バツゲームだ〜!〉


…仕方ない、どんな要望でも呑んであげよう。


〈ふふっ♪言ったね?言ったねぇ?言質、取ったからね?後悔しても遅いよぉ〜?じゃあ━━〉



後悔なんてするものか。



〈これからはずーーっと私の側にいてね〉


…これは手厳しいバツゲームだな。


〈そりゃあそうだよ〜バツゲームだもん♪〉


…仕方ない、私が側にいてやろう……私で良ければ…だが。


〈当然!うるさい私を引っ張れるのは君しか居ないからね♪〉



手を取る。

手を取られる。


笑顔を向けられる。

笑顔を向ける。



手を…引かれる。




ああ…私は…。




とても幸せだ……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

たった七日の一人戦争 猫部猫 @nekobe_neko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ