あべこべの世界(25)
マンションに戻るとわたしの部屋のドアにビニール袋がかけられていた。
孝志と顔を合わせる。
袋の中にはウコンと胃腸薬。
折り畳まれたメモには、
飲み過ぎ、浮気はほどほどに。あ
と書かれていてわたしは慌ててメモを握りつぶした。
孝志はわたしのその様子には全く気づいてないようで、
「あ、スーパーウコンの方だ」
と袋の中身に興味津々だ。
失っていた昨夜の記憶が蘇ってくる。
そういえば酔ってマンションの階段に座って寝ていたのを朝子さんに発見され、部屋まで連れてきてもらった。
と思う。
「朝子さん?」
メモを握りつぶしたわたしの手のうちがほっこりと温かくなる。
「うん」
うなずいたわたしの胸の真ん中にそのほっこりが移動する。
ここにも変らない人がいる。
「さ!早く夕食の支度をしよう!」
わたしは声を弾ませた。
目が醒めた。
アラームはあと五分で鳴り出す。
そっか….やっぱり夢だったのだ。
わたしはまだ夢の余韻にひたりながら、安堵感を噛みしめた。
もう少し見ていたい夢のような気もするが、やっぱり現実がいい。
わたしはゆっくりとべットから起き上がってバスルームに向かった。
が、現実の世界に戻ったのはその日一日だけだった。
次の日はまたあべこべの世界になった。
それから世界はあべこべだったり、現実というか正常の世界に戻ったりが一日置きに繰り返されている。
たまに何かの気まぐれか間違いで、あべこべの世界が二日続いたり、またその逆だったりする。
でもわたしはもうすっかりそのことに慣れてしまった。
そして最近分かったことは、世界が変ると直美や健二のように人格が変わる人と、孝志や朝子さんのように変わらない人がいるということ。
世界がコロコロと変る日常は大変だけど、わたしはとても大切なものが分かるようになったのだからよしとしよう。
「さて、今日はどっちの世界かな?」
あべこべの世界 八月 美咲 @yazuki-misaki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます