あべこべの世界(24)

「うん。じゃあそうしよう」


 わたしは自分の手を孝志の手の上に重ねた。


「ねえ、手を繋いで」


 うん、孝志はくるりと手の平を返し、下からわたしの手を握りしめた。




 孝志は変っていない。




 わたしは孝志の手を握り返した。


 世界は変ってしまったけれど、みんな変ってしまったけれど、孝志だけは変っていない。


 前と同じようにわたしに優しく、大切にしてくれる。 


「ねえ、孝志、もしわたしがみっともないくらい不細工な女だったらどうする?」


 孝志はそんなの想像出来ないよと笑いながらもうーんと首をかしげる。


「それでもおいなりさんと甘い卵焼きを作ってくれる?」


 孝志はすぐに答えた。


「うん。作るよ」


 わたしは心の中で呟く。


 そうよね….作ってくれてたんだもんね。


 ごめんね、孝志。


 少しでもあなたが健二みたいにイケメンだったらなんて思ってしまったわたしを許してね。


そのとき春風が桜の木を揺らし、雨雫がわたし達二人の上に落ちてきた。


 慌てて木の下から走り出て、二人声を上げて笑った。


 風がまた吹く。


 孝志は着ていたジャケットのジッパーを首元まで上げて首をすくめた。


「寒くなってきたね。家に帰ろうか」


 わたしはうなずき、手をつなぎ直した。




 あべこべの世界になったおかげで、わたしは大切なことに気づかされた。


 だからこのまま元の世界に戻らなくても良いかも知れない。


 少なくともわたしには孝志がいる。

 

「ねえ、今日はなにかわたしが作る!」


 わたしは繋いだ手をぎゅっと強く握った。


 また春風が吹いた。

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