あべこべの世界(23)
「桜のある広場まで行こうか?」
お弁当はいつも孝志が作るのだけれども。
公園の奥にはお花見にぴったりの大きな広場があった。
毎年桜のシーズンの週末は大賑わいをする。
「どれくらい桜の蕾が大きくなっているか見に行こうよ」
孝志はわたしの手をひいた。
その手はホットコーヒーでよく温まっていた。
わたしもココアを持っていたのに孝志の手の方が温かい気がする。
桜の広場に着くと孝志は素手で雨で濡れたベンチを拭き、その端にちょこんと腰かけた。
自分の隣なりも同じようにして
「こうやって端に座ればたいして濡れないよ」
とわたしを見上げる。
わたしは小さく頷き、孝志の横に腰かけ大きく膨らんだ桜の蕾を眺める。
来週にはここにたくさんの人が押しかけて、お祭り騒ぎになるんだろうな。
孝志と一緒にきた去年の春のことを思い出す。
お弁当はわたしの好きなものばかりだった。
お稲荷さんに、甘い卵焼き、きゅうりをハムで巻いたもの。
孝志はいつも自分はなんでも好きだからと、わたしの好きなものばかり作ってくれる。
「今年もお稲荷さんと甘い卵焼きがいい?」
孝志は嬉しそうにニコニコしている。
「お花見楽しみだね。来週末かな?」
わたしは、ふとあることに気づいた。
「それとも、今年はなにか他のものがいい?」
孝志はわたしの返事を待たずに続ける。
「まえに敏ちゃんがいいねって言っていたおにぎりサンドがいいかな?あれキレイだし美味しそうだよね。作るのもそんなに難しそうじゃないしさ」
「孝志」
「なに?おにぎりサンドはいや?」
「今年もお稲荷さんと甘い卵焼きがいいな」
わたしはゆっくりと言った。
「去年と同じがいい」
孝志はこくりと頷いた。
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