あべこべの世界(22)

 知っている!彼女らのこの言動の意味を。


 十年ほど前だとはいえ、わたしも女子高生だったのだ。


 この一連の動作はイケメンを見る女の子の反応だ。


 聞こえないはずのヒソヒソの内容がわたしにははっきりと聞こえるようだ。




 見て、あの人かっこういい。


 ほんとうだ。でも彼女いるよ。




 ほんらい不細工の孝志はこの世界ではイケメンに見えるのだ。


 


 わたしは隣なりを歩く孝志の横顔をまじまじと見つめた。


 孝志はわたしの視線に気づき、「なに?」と微笑んだ。


「女子高生たちがみんな孝志を見てるね」


 孝志は「そう?」と首をかしげる。


「うん。見てるよ。気づかないの?」


 孝志は笑った。


「分かんないよ。そんなの」


 不思議だ。


 孝志は嬉しくないのだろうか?


 女子高生たちの群れを抜けると公園はもうすぐだ。


 飲みものの自動販売機の前で孝志は足を止める。


「何か暖かいものでも買って、公園で飲もうか?」


 春風が少し冷たく感じ始める時間になっていた。


 わたしはホットココア、孝志はホットコーヒーを買い、缶で手を温めるように両手で握った。


 公園内はジョギングをする人やベビーカーを押すお母さん達がちらほらといるていどだった。


 林試の森公園という名前がついているだけあって、公園というより小さな森の中を舗装された道が走っている感じだ。


「やっぱり緑の中は気持ちいいね」

 

 何度も一緒に来たことがあるこの公園を孝志はとても気に入っている。


 桜の季節にお弁当を持ってピクニックをすると気持ちがいい。

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