あべこべの世界(15)
孝志からのメッセージがスマホの画面に表示される。
窓から夕日が差し込み、そろそろ定時の五時になろうとしていた。
今日は会社帰りに、敏ちゃんの部屋に置くフロアーランプを見に行く予定だよね。
そうだ、今日は孝志とそんな約束をしていたのを忘れていた。
今日は予定通りに会社を出られそうだ。
私は素早く簡単な返事をする。
待ち合わせの場所はあらかじめ決めていた。
パソコンの電源をおとし、なるべく音を立てないように帰り支度をする。
別に悪いことをしているわけではないけど、誰かに声をかけられたり、仕事を言い渡されたりしたら面倒くさいことになってしまう。
「お先に…」
誰にも聞こえないように挨拶をし、そそくさとエレベーターに乗り込んだ。
会社を出たところで、いきなり背後から誰かに肩を叩かれた。
振り返るとそこに立っていたのは、身長180センチの平成イケメン健二だった。
「敏子さん、こんにちは」
何度見ても心臓がドキッとする切れ長の目がこっちを見ている。
私は反射的に
「直美は今日はまだ仕事してますけど」
と会社の方の窓を指差した。
その瞬間わたしは心臓が飛び出すかと思った。
健二がそのわたしの人差し指をそっと握ったのだ。
「ぼく今日は敏子さんに用事があるんですよ」
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