あべこべの世界(14)

直美はハンバーガーにMサイズのフライドポテト、わたしはビックマックにLサイズのフライドポテト、そしてナゲットまで追加した。


 もちろん飲物はカロリー付きのコーラ。


 マックフルコースをお酒に酔った勢い以外で食べるのはいつぶりだろう?


 大好きだけどいつもダイエットをしていたから食べられなかったのだ。


 わたしは半分感無量な心境で、ポテトにケチャップとマスタードをたっぷりとつけた。


「敏子の食べっぷり、さすが美容に気を使っている女は違うわねえ。やっぱりモテル女になるにはそれぐらい食べないとダメかあ」


 わたしは思わず食べているポテトを吹き出しそうになった。


「あーあ、ボールいっぱいのサラダが食べたい」


 直美はため息をつきながら、ビックマックのバンを指でちぎって遊ぶ。


「でももっと太らないといけないし、野菜は美容に良くないしね」


 直美は意を決したようにハンバーガーとポテトの両方を口に入れた。


「やっぱり、美肌には揚げ物と甘いお菓子よね!」


 この後ケーキを買って会社に戻ろうと直美はコーラを飲みながら言った。




 変なのはわたしが美人だと思われていることだけじゃないようだ。


 もしかしたらこの世界はあべこべの世界なのか?


 太る食べ物が美容にいいなんて。


 ケーキの箱を手にぶら下げての会社へ戻る途中、大きな宣伝広告の看板の前を通りかかった。


 誰でも知っている有名な女優がタバコをくわえて妖艶な微笑みを浮かべている。


 その横には


 1日1箱のタバコは美肌を作る


 と書かれていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る