あべこべの世界(13)

 厳密に言えば、なったと言うより美人と思われるようになった。


 どうせだったら顔かたちが変わって本当の美人になりなかったが。


 でも一体どうして、世界がこんなに変わってしまったのだろうか?





 パソコンを見つめるだけでほとんど仕事にならない午前中が終わろうとしていた。


 もしかしたらこれは夢なのではないかと思った。


 夢の中でこれは夢だと気づいた夢など一度も見たことはなかったけど。




「敏子、ランチ行こう」


 いつものように直美がわたしに声をかける。


 いや、いつもはわたしが直美のデスクに出向くのだが、今日は逆だ。


 給湯室で声をかけてきた同期がチラチラとこちらを気にしている。


 彼に話しかけるタイミングをわざと与えないかのように直美は急いでわたしの腕を掴んだ。


「さ、早く行こう。」


 エレベーターの扉が閉まり、わたしと二人きりになると


「あいつ、敏子を絶対狙っているよね。あんな風貌で図々しい」


 と、憎らしそうにする。


 あんなと呼ばれるには彼は端正な顔立ちをしていて、中身は相当軽いけれど、女子社員たちにはけっこう人気がある。


 それについこの間まで、直美もイケルかもと言っていたではないか。


「あいつには敏子のことを見る資格さえもないのよ」


 直美の言葉はわざとらしい友情を演じているようでわたしを落ち着かなくさせる。


 今までわたしは直美の引き立て役として都合良く利用されていて、そこに女同士の友情なんて一度も感じたことはなかったから。


「やっぱり、今日はマックかなー?」


 直美は自分の下腹部を手で撫でる。


「最近ちょっとお腹が凹んできちゃって」 


 え?


「マジでやばいんだよねー。このお腹どうにかしないと」


 直美は続ける。


「本当はファミレスのサラダが食べたいけど、今日はマックでもいい?敏子」


 直美は胸元で両手を合わせ、お願いと言った。


 なに?変になっているのはわたしが美人と思われているだけじゃないの?


 一階が点灯しエレベーターの扉が開いた。


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