あべこべの世界(11)

 会社に着くまでの道のりも何人もの男性とすれ違い目が合った。


 なかには女性までもがわたしをじっと見つめる。


 わたしは最後ほとんど走るようにして会社のあるビルの中へ入り、更衣室には向かわずトイレに駆けこんだ。


 鏡に映る自分の姿を食い入るように見つめる。


 顔も、髪型も、服もどこもおかしなところはない。


 後ろ姿も確認する。


 洗面台の前でわたしはくるくる回って何度も確認したが、変なところはない。


 もう一度鏡に映った自分の顔をじっくりと見る。


 少し垂れた左右不対称の小さな目。


 必死に大きく見せようと努力したのが分かるアイメイク。


 低い鼻は開いた毛穴が目立たないようにしっかりとファンデーションを厚塗りしたにもかかわらず、もうすでにテカって毛穴がうっすらにじみ出ている。


 四十分かけたメイクも所詮はこんなものだ。


 輪郭のはっきりしない口元は口紅のせいでそれが強調され、ホウレイ線も今日は一段と深い。


 ブルドック顔にまた一歩近づいた感じだ。


 少しでも下を向くとできる二重あごもいつもと同じだった。


 体はくびれのないウエストと座布団のようなヒップ、曲線とはほど遠い四角いシルエット。


 いつものように不細工だった。


 なにか違うといえば、昨日よりもまた少し醜くくなっていることかも知れない。




 なにも変わりはない。



 いつもとなに一つ変らない。



 わたしは意味もなく手を洗った。


 勘違いだったのだ。


 水道の蛇口を閉める。


 わたしではなく、わたしの後ろか近くにいた誰か他の人をみんなは見ていたのだ。


 ハンドドライヤーで手を乾かしながら自分自身に言い聞かせた。




 そうだ。


 そうに違いない。


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