あべこべの世界(9)
孝志の低く先が丸い鼻を見ながら、孝志が健二のようなイケメンだったら、わたしの今の気分はもっとルンルンなのかな?
と考えてみた。
孝志が健二だったら、手に持っているのは近所のスーパーの袋じゃなくて、もっと高級でお洒落なお店のもので、そこから顔を出しているのはこだわりのフランスパンとか珍しい野菜だったりするはず。
それとも、健二だったらただの白ネギや白菜もなにか特別なもののように見えたりするのかな?
急に寒気がして、わたしはクシュンと小さいくしゃみをした。
春先は服選びが難しい。
昼間は暖かくでも夜はけっこう冷えたりする。
孝志の手が私の両肩に触れた。
「敏ちゃん、これ着ておきなよ。ぼくは太ってるから寒くないから」
わたしとほぼ同じ目線の高さの孝志は、自分の上着をわたしの肩にかけボタンを丁寧にとめた。
これが健二だったら、今わたしの周りにはピンクの花びらが舞っているのだろうか?
まだ固い桜の蕾の下、わたし達は家へと急いだ。
目覚めた朝はいつもとなにも変わらなかった。
セットしたアラームの前にいつも起きてしまうことも、起きてすぐにトイレにいきコンタクトをつけ、次にテレビを見ながらベットメイキングをし、顔を洗い服を着がえる。
毎朝、仕事に出かけるまでの私の行動は決まっている。儀式のように同じ順序で支度を進ませる。
今朝もそうだ。
なにも変らなかった。
家を出ると、マンションのゴミ置き場で朝子さんとばったり会った。
「お!敏ちゃん、いってら。昨日はありがとう!」
朝より爽やかな朝子さんの笑顔もいつもと変わりなかった。
歩いて十分ほどの駅へと向かう。
出勤時間帯の朝はほとんどの人が同じ方向に向かっている。
わたしはいつもと同じように少し早足になる。
別に遅刻しそうなのではないが、朝の出勤時はなんとなくそうなる。
毎朝見かける顔ぶれも同じで、いつも同じ人と同じ場所ですれ違う。
みんな朝の儀式通りに今朝も動いているのだ。
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