あべこべの世界(8)
大切なのは外見よりも内面
などという言葉にわたしは激しい違和感を感じる。
外見が悪いと人は卑屈になり内面も同じようになりがちなのが現実だ。
幸運にも美人に生まれ、いつも愛されることしか知らない人が明るくポジティブな性格になるのは当然で本人の努力など関係ないが、その反対は大変だ。
努力しないと明るくまっすぐな性格にはなれないのだから、人生って本当に不公平だ。
美人に生まれるか、不美人に生まれるかで、人生のスタート地点が違うのだ。
「敏ちゃん」
振りむくとスーパーの買い物袋を両手にさげた孝志が立っていた。
「ちょうど今から敏ちゃんのマンションに行こうとしていたところ」
スーパーの袋から白ネギや白菜がのぞいている。
「朝子さんは何時ぐらいに来れるって?」
今晩は朝子さんをよんでのしゃぶしゃぶパーティ。
「仕事が遅くなりそうで9時過ぎるかもって言ってた」
「そっか」
孝志は重そうに両手に下げた買い物袋をよいしょと持ち直す。
「でも先に食べてていいって言ってたよ」
わたしのお腹がぐーとなる。
なんだがタイミングが悪い。
「遅くなったら今晩敏ちゃんのとこに泊まってもいい?」
「別にかまわないけど」
また鳴りそうなお腹を手で押さえた。
孝志は週に一?二回うちに泊まる。
三年前のある日突然わたしは孝志に告白された。
家の近所のクリーニング屋で働いている孝志は、いったいいつ頃からわたしのことが気になり始めたのだろうか?
「こ、こ、今度一緒に、え、映画でも!」
と、真っ赤な顔をし、つばを飛ばしながら誘われたときは、思わず持っていたクリーングを落としてしまったっけ。
こんなドラマのような告白とそのリアクションって現実にあるものなのだな。
それもまさかの自分主演。
主演にしてはどちらも冴えなさすぎる容姿だけど。
わたしは隣なりを歩く孝志の横顔を見た。
いったいこの気の弱そうな彼のどこにあんな勇気があったのだろうか?
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