あべこべの世界(7)

もう今この瞬間から痩せるまでいっさい食べ物は口にせず、ひたすらくびれたウエストときゅっと上がったヒップのためのエクササイズを毎日やり、バストアップ専用のクリームを買ってマッサージを毎晩30分やる自分を想像した。


 そうしたら何日ぐらいで直美のような体になれるだろうか?


「さて、そろそろ行こっか?」


 直美がいきなり席を立つ。


 私は慌ててタバコを灰皿に押しつけたため、「熱っ」今度は私が指先を火傷した。


 直美は「タバコやめたら?」とだけ言ってさっさとレジの方へ行ってしまった。





 直美の彼氏、健二はいわゆる平成イケメン顔の持ち主。


 直美を迎えにきた時に何度か見たことはあるが一度も話をしたことはない。


 シュッとした切れ長な一重の鋭い目は同じ一重でも孝志のいつも笑っているような垂れ目の一重とはまったく違う。


 健二はわたしにはまったく興味がないのだろう、その目が私を捕らえることは一度もなかった。


 脂肪が1グラムもついてなさそうな締まった体にいつも高そうな服を着ていた。


 身長が180センチあってもわたしより体重が軽いのではないかと思うと、本当に自分のデブさが嫌になる。


 健二は大企業とまではいえないが、まあまあの会社の社長の息子で、二流の大学を遊びながら卒業したあと、父親の会社に当たり前のように入社した。


 道ですれ違う男性が必ずといっていいほどチラ見する直美の美貌と健二のイケメンぶりは絵に描いたような美男美女だった。


 性格まで二人はよく似ていた。


 なんて、二人の外見の足元にも及ばないわたしがこんなふうに言うのもなんだけど。


 会釈するわたしを無視する健二に私のプライドも少しは傷つく。


 こうやって性格も歪んでくるというものだ。


 わたしは外見だけでなく、心も醜い女になってしまったのだろうか。


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