あべこべの世界(2)

それに元々の美人だって、メイクするのだ。


 もとがいい素材に手を加えられたら、元々の素材が悪い方はいくらメイクしたって太刀打ちできるはずがないのだ。


 わたしは曇ったユニットバスの鏡の中の自分を見つめ、顎のあたりに赤いニキビができているのを見つける。


 最近、仕事が忙しくストレスがたまって暴飲暴食したせいだ。


 げんに最近1.5キロも太った。




 昨日も終電まで会社の同僚の直美と五反田で飲み歩き最後はカラオケで熱唱。


 二日酔いに輪をかけてタバコの吸いすぎで気持ち悪い。


 ストレスも発散できたのかどうだか分からない。



 今日は孝志と昼からランチの予定だったが、とてもあと一時間で支度をして外に出かけられる状態じゃない。


 わたしはさっきまで寝ていたベッドの中にまた戻った。


 孝志に会うためにに身支度に時間をかけるのをやめてしまったのはいつ頃からだろう?


 ベッドのサイドテーブルの上に充電アダプターだけがあるのに気づき、やれやれとまたベッドから抜けだし、ワンルームの隅に投げだしたバックの中からスマホを取り出す。


 バックの横には脱ぎ捨てられたスカートにシャツに、ストッキング。


 昨夜はまだちゃんと着がえて顔も洗って寝たのだから私にしては上出来だ。


 メイクを落とさずに寝るのはよくあることで、冬場ひどいときはコートを着たまま寝てしまったりもする。


 充電が残りわずかなスマホにアダプターを差しこみ、孝志にメッセージを送る。


 今日、うちでご飯でもいい? 昨日飲も過ぎちゃって。


 1分も経たないうちにメッセージは既読になり、孝志から返事がくる。


 白いウサギがお尻をふりながらOKサインをしているスタンプだ。


 孝志がこんなスタンプを使うと知っているのは日本中で私ひとりだけだろう。


 まさかこれと同じものを男友達に送っているはずはない。


 ウサギの後に文字がつづく。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る