あべこべの世界

八月 美咲

あべこべの世界(1)

 鏡の中にさえないひとりの女がこっちを見ている。


 少し垂れ小さく離れた目、それに左右不対称。


 鼻筋のとおっていない低い鼻。


 輪郭のはっきりしない口元。


 まだ二七歳だというのにホウレイ線もくっきりで少しでも下をむくと二重あごになる。





 不細工だ。




 美人とはほど遠い。


 でもこれがわたしの顔なのだ。


 いちおう化粧には時間をかける。


 最近はインターネットやテレビなどで、メイク前、メイク後のびっくりチェンジを冷やかすような動画や番組があるけれど、すべての人がそこまでメイクだけで変われるものじゃない。


 そんなことができるのは、本当にごく一部の人だと思う。


 わたしはメイクに四十分かけるけれど、すっぴんに比べたらマシにはなるていどで、美人と呼ぶにはほど遠い仕上がり。


 やはりもとが不細工だと人が振り返るような美人には決してなれないのだ。


 それに元々の美人だって、メイクするのだ。


 もとがいい素材に手を加えられたら、元々の素材が悪い方はいくらメイクしたって太刀打ちできるはずがないのだ。


 わたしは曇ったユニットバスの鏡の中の自分を見つめ、顎のあたりに赤いニキビができているのを見つける。


 最近、仕事が忙しくストレスがたまって暴飲暴食したせいだ。


 げんに最近1.5キロも太った。




 昨日も終電まで会社の同僚の直美と五反田で飲み歩き最後はカラオケで熱唱。


 二日酔いに輪をかけてタバコの吸いすぎで気持ち悪い。


 ストレスも発散できたのかどうだか分からない。



 今日は孝志と昼からランチの予定だったが、とてもあと一時間で支度をして外に出かけられる状態じゃない。


 わたしはさっきまで寝ていたベッドの中にまた戻った。

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