2. メアリー



わたしくこと

メアリー・ミク・ヴィダ・バーカー。


こう見えても

大妖精マーマの娘のひとり。

花と人をつなぐ妖精、のひとりでもあります。


こうして空を飛んで風に揺らぎながら。

傷ついてるを見つけては

元気づけたり

悩んでいるオーラを見つけては

相談に乗ってあげたり。


花たちが、人の手に渡るよう

装いの粉をふりかけてあげて

可憐に、美しく

時には優雅に飾ってあげる。


それが私のお仕事なのです。


この格好は制服みたいなもの。


私はいつも薄く赤いレースのブラウスを着て

リンドウの花のスカートを履くわ。


本当は私の着こなしを見てほしいけれど

とっても目立つのは、やっぱりこれですよね。


空を舞うにはどうしても、この羽根が必要なんです。

寒くないかって?

背中がスースーしますよ。

けれど、もう慣れっこなんです。


本当は私たちには、葉っぱの帽子を被るルールがある。

けれど私だけは、遠慮させてもらってます。

不格好だから…


あの…

ちょっとだけ、不満を分かち合いしても、いいですか?


仲間たちは皆、マーマから貰った大事な粉を、遠慮なく使う。

あんな花も、こんな花も。

困っている子にも、いない子にも。

見境なくばらまいてる。


まったく! プロのプライドってものが無いのかしら…


私は違います。


 

ちゃんとお話を聞いて、相談にのって

本当に本当に必要な時に、必要な分だけ助けてあげる。

それが本物の妖精の仕事ってもの。


頼り過ぎちゃ良くないのは、人間も花も一緒でしょう?

花に生まれたんなら、もう少し自分をアピールしないと。

だいたい、普段からちゃんとお手入れをしておかないとですねぇ…


ごめんなさい、つい取り乱しました。プロなのに。


つまり言いたいのは

私はひと助けの安売りはしないってコトです。



えーと、それでですね。


今日も、いつものように空を漂っていたら

向こうの方に見える人間の街のひとつから

困っている子の紫色のオーラが、煙みたいに漂ってきたんです。


それに沿って、少し空気の悪いところを進んでみたら

小さなお花屋さんフローリストがありました。


花のお店は仲間の大事な舞台。

ちゃんとしてくれないと

皆が泣いてしまう。


けれどここは、なかなか品の良いお店。

仲間たちも、元気で

にこにこして並んでいる。

ここなら誰も、困ってなさそうなんだけどな…


けれど私は、メアリー。

花と人を結ぶプロの妖精。

すぐに見つけました。


あの子。


椅子の上に

ひとりぼっちのラナンキュラス。

なんだかガックリして

生きる力が弱くなってる。

一本だけガラスの花瓶に入れられて

寄りかかる仲間もいないから、具合悪そう。


ん? あら、珍しい。

あの子、お顔の色がひとつだけ

抜けているんですね。

滅多にないけれど、

ママが息を吹き込む時に

あの一枚だけ

うまく色がのらなかったんだわ。


だから生まれつき…

そう、これはちょっと、可哀想かもね。


あっ!

ああ!!


あの子の後ろにある大きな本!!

私たちの絵が描いてある本だ!

かわいー!!

あの絵のモデルは私ね!

すっごーい、ソックリ!

まー本物はもう少し、足が長いかなー

いいなーいいなー、もっと中が見たいなー


あ…


こほん。


大丈夫です。

私はメアリー。

お仕事は忘れていませんよ。

プロですから。


えと、こういう時は、いきなり妖精の粉は使いません。

まずは観察してみましょう。


あのお花の生い立ちと、いまの心のあり方を。


そこに何か答えがあるのかも

しれませんから…


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