私の前に鎮座しているこの黒ずくめの人間は、室内にも関わらず行儀の悪いことにフードを取らなかった。


「...あなた、フード取りなさいよ、行儀が悪いでしょう」


流石に周りから変な目で見られそうだったので、声をかけてしまった。黒ずくめの人間は、


「あはは、そうだね!ありがと」


高い声でそう言い、フードを取った。いや、声から予想はしていたが...やっぱり、女だった。髪の毛はボブくらいの、可愛らしい、小動物みたいな女の子。私とは正反対。私の顔つきを伺いつつ、こちらに笑みを浮かべている。


「あれれ、みおちゃん、もしかしてあんま驚いてない?...あ、適当にドリンク頼んどくね!アイスティー!苦いの嫌いでしょ?」


なんで私が苦いのが飲めないことを知っているんだ...。喋れば喋るほど謎が増えていく。大体、強引に私をカフェへ連れてきた理由も分からない...


「あなた、誰なの?」


「んん、私?私はー....みおちゃんと同じクラスの何の変哲もない女子高生!」


何を言っている?私と同じクラス?あぁ、理解した。全部分かった悟った。この女は私の弱みを握りたかったんだ。学校にバラすぞ、と脅して私に何かをさせる気なんだ。学校には死んでもバレたくない。バレるくらいならそれこそ言葉通りに死んでしまった方がマシだ。


「私の弱みを握るためにこんなことしてるの?」


私がそう言うと彼女は、ひどく驚いたような顔をした。


「そんな訳ないでしょ!?メールにも書いてたじゃん!みおちゃんを、救いたいって!弱み握ろうだなんて...」


ありえない、とでも言いたげな顔と仕草を彼女はし、また笑顔に戻った。屈託のない、無邪気な笑顔を私に向けた。


「私さー...みおちゃんのこと、ずっと見てたし、ずっと...大好きだったんだー」


そう言って彼女は幸せそうに微笑んだ。

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