第1章 その2
屋敷内は、外観と同じく思ったよりも
けど、至る所に木材が使われていて
きちんとヒーターが効いていて暖かいのもありがたい。こんなに広い屋敷だと、温度調整するのもちょっと
周囲を
「アレン様、どうぞこちらへ。荷物は、エリー。部屋まで先にお持ちしなさい」
「は、はい!」
公女殿下よりは、少しだけ年上に見えるメイドさんが緊張した面持ちで
ああ、そんなに急ぐと……僕の目の前で転びそうになったのを、受け止める。
「きゃっ」
「おっと、
「は、は、はい。も、も、申し訳ありません……」
「エリー、屋敷内を駆けてはいけません、と何度言えば分かるのですか」
グラハムさんが
立ち上がらせた本物のエリー
「
「は、はい! 任されました」
「ありがとう」
「ひゃう。えっと、あのその……」
「ああ、ごめんなさい」
妹や
いけない。
……それでいて、自分は撫でろ、と事あるごとに言うのはいったい。長い付き合いだけど、
一連の様子を見ていたグラハムさんから
「アレン様は、本当に
「教授が僕をどう伝えているかは非常に気になります。……同時に聞きたくない気もしますが」
「色々とございますが……『天性の年下殺し』とも
「ひ、人聞きが悪い! 少しだけ、年下の扱いに慣れているだけです」
「そうでございますか。さ、どうぞこちらへ」
全く信じてない顔だ。教授めっ。
今度会ったら、不当に僕の
長い
グラハムさんがノック。「入ってくれ」との太い声が中から聞こえてくる。
扉を開け、僕だけ入れ、との仕草。
──なるほど。最終面接というわけですか。
ここで
目に入って来たのは大きな
後方で扉が音を立てて閉まった。これで退路なし。
「失礼します」
「おお、来たか。初めまして──と言うべきなのだろうな。あいつから君の話を散々聞かされたせいか、そういう気持ちになれんが。ワルターだ。一応、ハワード公爵という事になっている」
「アレンです。今日一日で元から高くなかった教授への
「ははは、君も巻き込まれた口か。あいつは昔からそうだ。気に入った人間を
「はぁ」
「色々とあったばかりだというのに、王都からはるばるすまなかった。話は聞いてきていると思うがよろしく
「ご
そして、こちらに向き直り告げられた。
「……今度、来た時はあいつをぶちのめそう」
「
「うむ」
「それで、僕が聞いていた内容とは何か異なるのでしょうか。車中でも少し聞いたのですが、前任の方は?」
「来春まで君に我が末娘であるティナの家庭教師を務めてほしい、というのは本当だ。しかし、王立学校入学まで、というのは少し
「と、言いますと?」
「我が家系は王国建国以来、北方を任されてきた。そのことを
「はい」
「私の子供は娘が二人だけ。ティナが幼い頃妻に先立たれてね……新しい妻を
話が何となく見えてきた。つまり、公爵は。
「君に任せたいのは、ティナに王立学校入学を
……教授。
王立学校への入学を諦めさせる。
その逆は分かる。何度かそういう話は受けたし、無事合格させてきた。
けど、諦めさせたことなんてない。この国で要職に就きたいのならあそこに入学し、
……それを諦めさせる。しかも実の娘に。余程、事情がありそうだ。
「魔法の才がない、というのは?」
「そのままだ。ティナはあの歳で簡単な初級魔法を起動させる事も出来ない。いや、魔力はあるのだ。それこそ私や長女以上に、な。にもかかわらず……小さな火や、ほんの少しの水、
「聞いた事がない事例ですね。ただ、王立学校は魔法の才を有するのを前提にしていますが、近年では他の分野において著しい才があれば入学を許可していますし、そこには
「……
「……申し訳ありません。
王立学校は、王国
当然、集まって来る人材は優秀の一言に
が……その授業内容は王国
形式上、卒業短縮制度は設けられているものの、適用される者は極めて
──その名門で数年前、波乱が起きた。
二人の学生が、僅か一年で卒業してしまったのだ。
しかも、その内の一人は入学前、まともに魔法を使う事が出来なかったにもかかわらず、卒業時には王国屈指の
……いやまぁ『その二人』とは、僕と腐れ縁、リンスター公爵家の
「リディヤ嬢は私も知っている。彼女が魔法をまともに使えるようになったのは入学後。入学試験は剣術のみで乗り切ったこともな。これだけを聞くと多少の救いも感じるが……」
「事実です。正確に言えば、僕と出会った後ですね。剣術は最初から
「同時に、彼女は初級魔法程度を使えたとも聞いている。しかし、ティナは……」
リディヤは基本的に細かい事が苦手で、魔法を使えなかったのは、入学前に付けられていた教師の教え方が問題であったように思う。
あの子に理論だけを幾ら教えても
元々素質は
その次の日には、極致魔法を僕へ
……本人は心底
だけど、公爵が仰る通り、彼女の場合、
公女
「ティナは責任感の強い子だ。うちに生まれた以上、その義務を果たすべく王立学校への入学は当然だと考えている。嬉しいことだが、私は……別の路へ進んでも構わないと思っている。魔法が使えなくとも、あの子は我が家にとってかけがえのない子なのでな」
「と、言いますと?」
「見てもらった方が早いだろう。付いて来てくれ」
そう言うと公爵はおもむろに立ち上がり扉へ向かう。僕も
──さて、何を見せてもらえるんだろう?
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