第1章 その3
連れて行かれたのは
近づくに連れて
「温室ですか。これ程、大規模な物は王都にもありませんね。しかも、この植物達は……」
「よく勉強している。魔法以外も博覧強記、との話に
「これを公女殿下が?」
「そうだ。あの子は幼い
娘の興味でこんな
だけど、やっている事には賛同する。
雪国で、どうすれば植物や作物を
ああ、なるほど。
「この研究を続けてほしい、そう思われているのですね」
「……あいつの言っていた通り、察しがいい。その通りだ。あの子が始めた研究によって我が領土では今まで作れなかった作物を生産するようになっている。また、本来は育たなかった花や植物も、王都へ売りに出せるまとまった量を生産出来そうなのだ。領主の立場からも、父としての立場からも、ここに残り研究を続けてほしい」
これはまた……思った以上の難題を押し付けられたなぁ。認識が甘かったか。
家名を考えて王立学校を目指す娘。
その
……教授め。
「一つ確認してよろしいでしょうか」
「言ってみたまえ」
「お気持ちは理解いたしました。しかし、僕個人の意見としては──御本人がお進みになられたい路へ行くべきだと思います。もしも
公爵の目を真正面から
「公女
「……はっきりと言う男だな、君は」
「最初から損な役回りを求められていますので」
「分かった。もし、君の力でティナが魔法を王立学校の水準に達するまで使えるようになったならば、その時は私もありとあらゆる手段を用いてでも、後押しをする。今は亡き我が妻に
「ありがとうございます。で、あるならば」
思わず笑みが
リディヤの時は、単に苦手意識を持っていたのを
今回は、原因不明な理由で魔法が使えない女の子をどうにかする。中々、教え
未知に
「何とかしてみせましょう。これでも『
*
その
「良し、皆いるな? では──遠方からの客人に
『乾杯!』
大声が
直後、公爵家に仕えていて時間があった人達が陽気な声をあげながら、長テーブルに置かれている大皿へ手を
料理の種類はそれ程多くない。パンとスープとサラダ。これは
うん、
ワルター様が楽しそうに話しかけてきた。
「どうかね? 王都で
「
「そうか。それは良かった。うむ、これが北方の伝統なのだよ。食材も、
「──良い伝統ですね」
周囲の
真面目に考えると、雪国の
グラハムさんもまた、
「
「おお。アレン君、君もどうかね? 十七なのだから何も言われはしまい」
「いただきます──と、言いたいのですが、この後、部屋で明日の準備をしなければならないので、本当に、本当に残念ですが今晩は辞退いたします」
「残念だ。グラハム、私は飲むぞ。お前も飲め」
「いえ、私は」
「良いではないか。アレン君の世話はティナとエリーに──あの二人はどうしたのだ?」
「先程、
「そうかそうか。なら、その後は付き合え」
「
僕も飲みたかった。公女殿下を
──そんな風に食事を楽しんでいると
視線が集中し、入って来たのは二人の少女。
一人は濃い青のドレスを着ている、
もう一人は、メイド服姿でブロンド髪を二つ結びにしている少女。
ティナ公女殿下と、メイドのエリーさんだ。
「おお、ティナ、それにエリー。こっちへ来なさい」
「はい、御父様」
「は、はいっ!」
二人が歩いて公爵の傍へやって来る。
──公女殿下と視線が交差し、すぐ
「アレン君、
「アレン様、初めまして──ティナ・ハワードです。
「アレンです。こちらこそ、よろしくお願いいたします。エリーさん、先程は荷物ありがとうございました。車の中は寒くなかったですか?」
「へっ? く、車ですか?」
「アレン様、色々とお話を聞かせてくださいませんか?」
うん、教授が言ってた意味が分かる。とっても可愛いな、この子。
王国内でも
くすくす、と笑っていると、頰がどんどん赤くなっていく。素直な子だなぁ。
ああ、一つ確認しておかないと。
「
「その呼び方は
「では、ワルター様──僕が見るのは、公女殿下だけ」
「アレン様、私の事もティナと。生徒になるのですから」
「……だけなのでしょうか?」
「本当に君は察しが良いな。今、話そうと思っていた。エリー」
「は、はひっ!」
ガチガチに
グラハムさんまで、何処となく緊張している。
「アレン君、エリーはグラハムの孫でね、我がハワード家を長きに
「それはエリーさんも王立学校へ、という意味でしょうか?」
「うむ……そこまで育て上げてくれれば、万々歳だが……」
御二人の顔が
どうやら、今の段階では厳しいみたいだ。でも、そんな事よりも何よりも。
「エリーさん、一つだけ質問させてもらっても良いですか?」
「は、はいっ」
仕方ない事なのかもしれないけれど、もっと気楽でいいのに。どうしようかな。う~ん、こういう時は……ぽん、と小さな頭に手を置き、微笑みかける。
「え? あ、あの……その……」
「む……」
「あ、申し訳ありません。どうやら
「わ、私は、言われた通りに」
「そうじゃなくてですね。貴女は公女──失礼。ティナ様と
「も、
「──ありがとうございます。それを聞いて安心しました。ワルター様、グラハムさん。確かに、エリー・ウォーカー
「うむ、よろしく
「よろしくお願いいたします」
「は、はいっ! あの、その、アレン様」
「アレンでいいですよ」
「で、では、アレン先生。私も、エリー、と呼び捨てにしてください。お願いします」
強い意志がこもった
「……では、私も今から先生、とお呼びします。よろしいですね?」
公女殿下がむくれている。少しからかいすぎたみたいだ。
「ティナとエリーですね。
やれやれ、先が思いやられるね。
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