第1章 その1
トンネルを
ハワード公爵家の
冬季は全てが雪に
寒いぞ、という教授の
二重構造の
教授が手配してくれた一等車だからこそ、この程度で済んでいるのだろう。僕が何時も乗っている三等車だったら……考えたくない。旅自体は快適だったけれど、先が思いやられるなぁ。
餞別のお弁当は美味しかった。
汽車は、北部の中心都市に
……ほんと良かった、
案の定、外はとてつもなく寒く、思わず
教授から
駅舎内に入り、きょろきょろと周囲を見渡していると声をかけられた。
「失礼。アレン様でしょうか?」
こんな小さな子がメイド? 疑問を感じながらも、口を開く。
「はい。僕の名前はアレンですが」
「やはり。私、ハワード公爵に仕えます執事長のグラハムと申します。この子は──メイド見習いのエリー」
「エ、エリーです……」
そう言うと少女はすぐにまた隠れてしまう。男の人が苦手なのかな。可愛らしい女の子だ。薄く蒼みがかった白金の
グラハムさんが僕の疑問を
「あ、大丈夫ですよ。僕が自分で持っていきますから」
「いえいえ。アレン様はティナ
「そ、そうですか。ではお言葉に甘えます」
わざわざ車を回してくれたらしい。王都でも乗る機会は多くないのに。
歩きながらちょっとした会話。天候や、食べ物の話。雪はこれでもまだ降ってない方らしい。もう少ししたら、春先までは本格的な冬籠りなんだそうだ。
……これでか。
ちょっと気分が重くなる。寒いのは得意じゃない。何せここ数年、
「それにしても、よく僕が分かりましたね。自分で言うのも何ですが、外見に
「当然でございます。
「どういう事ですか?」
「我が主、ワルター・ハワード様とアレン様の師である教授は長きに
「……なるほど。僕の
「はい。当然、笑い話ではなく、
あの教授は何処まで話しているのか。四方八方である事ない事話のネタに使っているんじゃないだろうな。
ありえる。あの人ならば、十分にありえる。何しろ、人生を楽しむ事に関しては一切の妥協をしない人だし。
──今度、
*
停車場に置かれていた車は、思った通りの高級車だった。ただし……グラハムさんが、僕の鞄をトランクへ入れ、ドアを開けてくれる。
「さ、お乗りください。少々
「へっ? あ、いや、でも
「い、嫌じゃありません……わ、私の事はお
ずっとここまで無言だったエリーさんが顔を上げ、僕を見た。
見つめ返すと、すぐにまた
……えーっと、
「エリーもこう言っておりますので」
「はぁ」
「し、しつりぇい……失礼しますっ」
軽っ。ちゃんと食事をしているのだろうか、と心配になる。
間近で見たリボンには
だけど、
……この子、もしかして。
車のドアをグラハムさんが閉め、いざ発進。
寒い! ヒーターは動いているけど、寒気に負けている。
つけっぱなしで
膝上の少女も
首からマフラーを外し、少女の首にかけてやる。
運転しているグラハムさんへ確認。
「すいません。少し
「魔法でございますか? 危険な物でなければ構いませんが。
「ああ、大丈夫です。温度操作ですから」
「温度操作、でございますか?」
「驚くような魔法ではないと思いますが……ちょっとしたものですよ」
何をそんなに驚いているのだろう? 教授の研究室なら
コツは、炎・水・風の三属性を少しずつ調整する事。注意しないといけないのは、一気に温度を上げようとすると、暴発しやすくなる点だ。
世間
乗って来た汽車内でも使われていたけど、あれもやっぱり一属性に
車中がゆっくり、でも確実に暖まってゆく。うん。これなら
「聞きしに勝る、とはこの事でございますね」
「す、凄いです。こんな簡単に……」
グラハムさんとメイドさんが
人心地ついたことで、窓から外の風景を見る
今年はまだそこまで降っていない、という話だったけれど……故郷では雪そのものが降らず、ここ数年は王都・故郷・南方、とやっぱり雪に
そう言えば──王都出発以来の疑問をグラハムさんへ
「一つお聞きしてもよろしいですか?」
「私に答えられる事でしたら何なりと」
「僕にとっては幸いでしたが、どうしてこの時期に家庭教師を
「おや? 教授からは何もお聞きにはなられていないのですか?」
「聞いていません。汽車のチケットと
「……一度、じっくりとお話ししないといけませんね」
「その時は
グラハムさんも
あの人はまったく……基本的には、教え子思いのいい人だと思うし、こと魔法に関していえば王国内でも
少女がさっきからそわそわしている。
「ごめん。ちょっと暑くし過ぎたかな?」
「い、いえ、そんな事はない、です……」
ああ、また俯いてしまった。
初対面の男、しかも膝上に乗っているんだもんなぁ。そりゃ、
取りあえず、この事は誰にも話すまい。これ以上、笑い話を増やしても何の得にもならないし。
そうこうしている内に、公爵家の
ただし、あちらの御屋敷が見事としか形容出来ない程に
ハワード家は、代々、北方を守護してきた武門の家系と聞いているけれど、何となく納得する。
守衛さんが正門を開けてくれて、そのまま中へ。屋敷の
まず、少女に降りてもらい僕も続く。さて。
「長旅、お
「いえ、ありがとうございました──公女
「い、いえ、此方こそありがとう……へっ?」
笑顔で謝罪を口にすると、少女が目の前で固まっている。いやいや、気付かない程、
バレバレです。
「えっ? あのその、
この百面相は面白いな。映像
「駅舎でお会いした時からですね」
「ほぉ……」
「ど、どうして分かったんですか!?」
「羽織られている物が上質過ぎました。何より、メイドさんには見えませんでしたから。服のサイズも合っていませんでしたし、頭にホワイトブリムも付けていませんでした。慌てて誰かに借りたのかな? と。変装してまで僕の事を確認したい方は限定されます。何より──付けられている純白のリボンです。そんな見事な代物、僕は王都でも数える程しか知りません」
「
「うぅ……」
「申し訳ありませんでした。
「いえ、自分がこれから教わる人を気にするのは自然ですよ。メイド服はどうかと思いますが。
「そうでございましょう。是非、その台詞を後で直接お伝え願います。お喜びになられますので。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます