女媧降臨 その1
才能、容色、血筋に健康。
人間、どうにもならないこともあるものだ。
ただし人は人、
「……なんて
「何を今さらなことを言ってんですか
姫さまが他人を
うっすらと
「いいわよね
不満顔でじとっと見つめる雛花に、雛花付きの女官の
「そっすねー、まあその話、私は雛花さまの付き人を
「……ありがとう。そこは感謝してるの。だけど、それとこれとは別だから嫉妬をやめる気はなくてよ」
「あ、分かってます」
春を
緑の
「ああ羨ましいやれ羨ましい心の底から妬ましい。前から思っていたけど、おまえ、きっと人生『いいじいもうど』なのね」
「……なんスかねその『いいじいもうど』って」
「老人になっても
「ああ、『いい
「わたくしも『いい爺毛度』な人生がよかったわ。珞紫なんて、わたくしの知らないところでそっと出世してしまえばいいのよ」
「いや、
珞紫は雛花の全身をまじまじと見て、笑みを深めた。
ほのかに
「うん、今日も大変お美しい。ってホント、黙ってりゃ
「聞こえなくてよ。ものははっきりおっしゃい珞紫」
「いえ? 何を羨ましがることがあろうかと。なにせあなたは」
この
聞いた瞬間、雛花は「皮肉?」と
「──公主なんて名ばかりのみそっかすだけれどね!」
うららかな午後の
広大な敷地には、
通常であれば、このように美しく恵まれた
ただし、とある事情を持つ雛花だけは例外である。そんな四季折々の花々を咲かせる庭を歩くたびに、
かぐわしい花のかんばせにだけ恵まれても、
──
『なんであいつはまだ禁城にいられるんだ? たしか、昔
『後宮から追放されて、使用人もわずか二、三人の小離宮暮らしだなんて、帝国史上きっと初めてよね。しかも離宮とは名ばかりのおんぼろあばら家よ』
『おまけに、お勉強はできても術での
(ええそうですとも。できそこないの落ちこぼれなのは事実だし、あばら家暮らしも、悪口言われ放題イヤガラセされ放題の生活も、ぜんぶ自分で選んだ結果ですけれども!!)
兄姉たちは、ひらひらきらきらと美しい
中には、実害をともなう悪質な
そして、生前の
(──だからってなんなのよ!)
心ない人々に負けて、
そこで雛花は、
それだけなら「ご
が、その反面──長年にわたるあれこれに、雛花はすっかりやさぐれてしまっていた。
「ふふふ……悪口を悪口で返して
「いや、それはそれでどうかと思いますよ雛花さま」
平たい話、「どいつもこいつも恵まれすぎだわ……!」と相当な羨ましがりの嫉妬深い性格になってしまったのである。
趣味、自虐。特技、嫉妬。
「ふふ。たとえるに徒花だなんて皆さまうまいことおっしゃいますのね。どんな花でも咲くのは地べたから。人から動植物に始まり果ては水や空気に対してまで、大輪の嫉妬の
とはいえ兄姉たちは、やがて
「ドヤ顔で言わないでくださいよ。別に踏まれっぱなしで終わる気はないんですよね? 一発逆転
「そうね。この
(ええ。この地で、宗室であるわたくしに打てる手はひとつだけ)
──わたくし、何をしてでも必ず『
創世神話いわく。一対の男女神、
そして
すなわち。
神々に選ばれるごとにそれぞれが立ち、代々国を治め、守護してきた。
(皇統の誰が天后になるかは、まさに女媧
不思議なことに、神々に選ばれるのは皇帝の子供だけ。また、その力は、神話のとおり文字に宿る。だから、皇子皇女らは、
神に選ばれた
ところが、その天后の座が、ここ二十年ほど
(だからわたくしが、もっともっともっと勉強して、絶対に天后になってやる。天后の
「あ、雛花さま。言い忘れてましたけど、そろそろお客さまがおいでのはずですよ」
考え事に沈んでいた雛花は、珞紫の声ではたと顔を上げた。
「お客さま?」
「ええ。さっき、
「うそ、紅兄さまが!? それを早く言いなさい!」
(わたくし、髪は乱れてない? ああもう、紅兄さまがいらっしゃるなら、もっと
湖面に姿を映して
「
ひび割れた
「そう急がなくても
雛花の三つ年上で、
(本当に。紅兄さま、今日も、……素敵だわ)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます