取材は要領よく!

 ミキ達は、一足早くサッポロンに到着した。


 「こんにちは」


 ミキ達が入っていくと、すすり泣く声が聞こえた。

 見ると、熊谷が泣いていたのである。


 ――もう、佐藤さんの事件の事は知っているみたいね。


 前回来た時と違い、雰囲気は全然違った。

 辺りはしんみりとしている。


 「ミキちゃん! 佐藤さんの事件の事知ってる?」


 そう聞いてきたのは、熊谷の背中をさすっていた林だった。


 「えぇ……」


 「私のせいよ!」


 突然、熊谷がそう言った!

 皆は、違うわよと、彼女を落ち着かせようと慰める。


 「あの……。なぜ、熊谷さんは、自分のせいだと? あ、話せたらでいいんだけど」


 ミキが聞くと、五十嵐が口を開く。


 「旦那さんを亡くした者同士だから、熊谷さんって佐藤さんと一番仲いいのよ。で、ちょっとした事件がね、昨日、一昨日とあって……」


 「事件?」


 「携帯電話にオレオレ詐欺の電話がきたのよ! 全員に!」


 何故か小声で五十嵐は言った。

 ミキと浅井は驚く。


 「それでね、佐藤さんだけが来てなくて、熊谷さんがあなたが電話番号漏らしたんでしょうって、言い合いになって……」


 ミキと浅井は顔を見合わせた。

 佐藤の話とは、この事だったのではと思ったからである。


 「だって! 新しく買ったもう一台のスマホにも来たのよ……。佐藤さんにしかまだ教えてないのに……」


 「え? 教えたのっていつですか?」


 驚いてミキが聞くと、すすり泣きながら熊谷は答える。


 「この前の講座の後よ。買ったのは、その前日よ……」


 「そうですか……。わかりました。……大丈夫よ。佐藤さんがそんな事する訳ないとわかっているでしょ? 私が犯人を捜してあげるわ!」


 ミキは、少し間を置いて言った!


 「え? 本当に?」


 熊谷は驚く。当然、その場にいた全員も驚き、ミキを見ていた。


 「私は、記者よ!」


 「「ありがとう。ミキちゃん」」


 全員がお礼を言うと、ミキは頷いた。

 佐藤を殺した犯人を見つけるけど、その佐藤の濡れ衣も何とかしようとミキは思った。

 もしかしたら佐藤は、その詐欺の電話の事に何か思い当たる事があって、ミキに連絡して来たのかもしれない。


 もし、その思い当たる人物に殺されていたらと思うと、いたたまれない気持ちにミキはなった。

 仕事を抜けて聞きに行っていれば、もしかしたら殺されていなかったかもしれない!

 ミキは、小さくため息をついた。


 トントントン。

 ドアがノックされ、失礼しますと人が入って来た。青野達である。


 「私は、手稲署の青野です。佐藤さんの件で少しお話を聞かせて頂きたいのですが宜しいですか?」


 青野と緑川は手帳を提示した。

 ミキは、スタッフに近寄って話しかけた。


 「あの、今日はこういう状態なので、講座兼取材は後日で宜しいでしょうか?」


 「はい。私もそう思っていたところです」


 スタッフは、頷いてそう言った。


 「では、私達はこれで」


 ミキが頭を下げると、浅井も下げた。そして、ミキがドアを開けると反対側の手首をつかまれた!

 勿論、つかんだ相手は、遊佐だ。


 「どこへ行く」


 「取材どころではなさそうなので、会社に戻るのよ」


 振り返り、ミキは遊佐に言った。


 「あ、遊佐さん。彼女達の裏は取れてますので大丈夫ですよ」


 緑川がそういうと、遊佐ではなくミキが返答をする。


 「え? もしかして会社に私のアリバイ聞いた?」


 「えぇ」


 ミキのその問いに、不思議そうに緑川は頷いた。


 「取りあえず、外に出よう」


 遊佐はそう言うと、そのままミキの手を引っ張って外に連れ出した。


 「何か会社にバレてはまずい事でもあるのか?」


 遊佐は、ミキに鋭い視線を向ける。


 「別に……」


 「ミキさん、僕達、支店長に怒られますかね? 時間外に取材したって……」


 「大丈夫よ。取材じゃないんだから……」


 不安げに聞く浅井に、ミキはそう言った。


 ――叱られるとしたら、厄介ごとに巻き込まれた事でしょう……。


 ミキは、ため息をつく。


 「あ、すまない」


 遊佐はそういうと、ポケットからスマホを取り出した。

 電話が来たようだ。


 「はい、遊佐です。……申し訳ありません。すぐに戻ります。はい、失礼します」


 遊佐は、電話を切るとミキ達の方を見た。

 そして、スマホをしまいながら言う。


 「時間切れだ。俺は仕事に戻るが、余計な事はせずに大人しくしてろよ!」


 遊佐はそう言うと、小走りにその場を去って行った。

 ミキは、安堵する。


 「どうします?」


 「どうしようかしらね……」


 今日の出社時間は、十四時からなのでまだ時間があるのである。

 その時、鞄からブーブーとバイブの音が聞こえて来た。

 ミキは、スマホの画面を見ると、会社からだった。


 「はあ、電話来たか……。はい、若狭です」


 『若狭、今どこにいる?』


 ――支店長から直々に電話だ……。


 相手は、見谷からだった!


 「……外です」


 『事情聴取は終わったんだな?』


 「はい」


 『だったら、取材をしろ! スクープ逃すなよ!』


 「え? いいんですか!」


 見谷の意外な言葉に、ミキは驚く。


 『当たり前だ! 人手が足りなかったら言え、回すから』


 「ありがとうございます。今の所、大丈夫です。では、取材します!」


 ミキが電話を切ると、不思議そうに浅井が見ていた。


 「何か、取材してOKだって!」


 「え? お咎めなしですか?」


 ミキは頷いた。

 浅井は安心した顔をする。


 「浅井さん、バイクで現場周辺の聞き込み行くわよ!」


 「はい!」


 二人は、バイクに乗り、佐藤宅へ向かった!

 


 ○ ○



 浅井は、佐藤宅より少し離れた所にバイクを止めると、ミキはジャケットを脱いだ。


 「これ、ありがとう」


 そして礼を言いながら、浅井に返した。


 「あ、はい」


 「取材するのに、その恰好はね……」


 「あ、そうですよね! じゃ僕も!」


 浅井もジャケットを脱ぐと、リュックにしまった。

 二人は、佐藤宅の近くに行くと、佐藤宅の向かいの家から二人の男性が出て来た。


 「ご協力ありがとうございました」


 そして、そう言って立ち去って行った。


 ――刑事達だわ。そうだ! いい事思いついた!


 ミキは、小走りに刑事たちが出て行った家にむかい、表札を確認してからチャイムを鳴らした。


 ピンポーン。


 「はーい」


 家の主は、直ぐに出て来た。

 この家に住む40代ぐらいの主婦だ。


 「佐々木さん、すみません。向かいの佐藤さん事で少しお伺いしたいのですが」


 「え? 今、違う刑事さんに話しましたけど?」


 「同じ事で宜しいので、もう一度お伺いして宜しいでしょうか?」


 ミキは、それだけ言って、丁寧にお願いをする。

 佐々木は、頷いた。


 「はい。いいですけど……。えっと、昨日、夜七時半頃に再配達してもらったんだけど、丁度目の前にトラックが止めてあったので、様子がどうだったかわからないです」


 「照明がついていたかもご覧になってませんか?」


 佐々木は、頷く。

 見えなかったようだ。


 「ちなみに宅配業者はどこでしょうか?」


 「北カモシカ便です」


 「そうですか。ありがとうございました」


 ミキは、深々と頭を下げた。慌てて、浅井も下げる。

 二人は、失礼しますと、道路に出た。


 「すごいですね。普通に教えてくれました!」


 浅井は、凄く興奮して言った。

 情報を手に入れられたからだろう。


 「たぶんだけど、違う刑事だと思ったんだと思う」


 浅井は、今度は驚いた顔をする。

 協力的だったのは、刑事だと思っていたからだったようだ。


 「大丈夫よ。私達は、警察を名乗ったわけじゃないんだから」


 「そうだけど……」


 浅井は、まだ不安そうに言った。


 ブルルン。

 トラックの音が聞こえて来た。

 遠くを見れば、噂の北カモシカ便だ。


 「あら、丁度いいわ」


 ミキは、こちらに向かってくるトラックを見て言った。

 北カモシカ便のトラックは、佐藤宅の一つ手前の家の前に止まる。

 ミキ達は、配達員が戻って来るのを運転手側のドアの前で待った。


 少しすると配達員が戻って来る。


 「こんにちは」


 ミキが挨拶をすると、配達員は驚く。


 「えっと、何か……」


 「すみません。昨日、あちらの佐々木さんに再配達してますよね?」


 「そうですが……。もしかして、車、邪魔でした?」


 ハッとして、配達員は言った。


 「いえ、そうではなくて、その時に向かいの佐藤さん宅で、何か気が付いた事なかったかなと思いまして……」


 配達員は、考え込む。


 「どうですか? 飯田さん」


 「え? どうして名前を……」


 ミキは、飯田の胸に付けている名札を指差した。


 「あぁ、そっか。……実は、昨日、配達が終わってから運転席で作業していたんですが、その時に佐藤さんの家から若い男性が出て来たんです……」


 「それ、本当ですか?」


 飯田は、本当だと頷いた。


 「あの、もういいですか? 配達があるので……」


 「はい。お仕事中ありがとうございました」


 ミキが礼を言うと、飯田はトラックに乗り込み、その場を去って行った。


 「凄い収穫ですよ!」


 また興奮して、浅井は言った。

 ミキは、そうねと頷く。

 飯田もまた、警察だと思って話したのだろう。


 「私は一旦、家に戻ってパソコンを取って来てから、会社近くのホワイトに行ってるわね」


 ホワイトとは、Wi-Fi環境がある会社の近くの喫茶店である。

 ノートパソコンは、ショルダーバックには入らないので、自宅に置いて来ていた。


 「わかりました。家まで送ります。その後、家にバイクを置いてから僕も向かいます」


 二人は、バイクに乗り走らせた。

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