晩餐で暴きます!
ミキが十九時ニ十分に食堂に行くと、全員着席して待っていた。
スタッフがせっせと、食事を並べている。
ミキは、遊佐の隣に座る。前の席は伊藤で、昼と同じ席だ。
食事の用意が整い、頂きますと食べ始める。
晩餐の始まりだ!
食事は静まり返ったままだった。誰も語らない。
ミキはそんな中、相内に話しかけた。
「ねえ、相内さん。頂いたドリンクって果物と野菜のジュースだった?」
「え? うん。そうだけど」
質問された相内は不思議そうに答えるも、伊藤は驚いていた。
ミキは保険外交員がくれたドリンクが、野菜と果物の特性オリジナルドリンクだと取材した人達から聞いていた。
――間違いないわ。彼女だわ!
「ねえ、アカネさん。私に楠さんと何を話したのって聞いたわよね?」
楠の話題に皆、気まずそうな顔つきになる。だた伊藤は、ミキを探るような目つきでみていた。
「そう言えば聞いたわね」
伊藤がそう答えた。
「実はね、婚約者の話をしたの」
「場がしらけるから、楠さんの話はよさないか?」
八田がそう言って、この話を終わらせようとする。彼にとっても触れられたくない話だ。
「あら、アカネさんを庇うんだ」
「別にそう言う訳じゃ……」
「ねえ、伊藤さんってアカネさんって名前だった?」
相内が首を傾げ、そう言った。
伊藤と八田はハッとした顔つきをし、遊佐は眉をひそめている。堀は首を傾げる。皆、下の名前なんて覚えていない。
「え? いや、流れから伊藤さんの事かと……」
伊藤が答えないので、八田がそう言った。
「あら嫌だ。アカネさんでしょう?」
ミキがそう言うと、伊藤がキッとミキを睨む。だがミキはそれを物ともせず、ICレコーダーをテーブルの上に置いた。
その行動に、遊佐も含め全員が驚く。
「おい、ミキそれ……」
ミキの隣で遊佐が呟く。
取り上げた他に持っていたのかと、遊佐は驚いていた。
ミキは気にせず、ICレコーダーのスイッチを入れる。
ピッ。
『なんであんな事言ったのよ』
『さっきあいつに言った通りだ……』
『じゃなくて、女の人の姿を見たって事よ』
『別に大丈夫だって。っていうかお前、だいいち……』
『何かありましたか?』
『……別に何も』
「何録音してるんだ!」
八田が驚いて叫ぶ!
遊佐は、太ももを叩かれたのに気が付き、下を見ると、ミキが何かくれと言わんばかりに手を出していた。思いつくのは一つ。預かったICレコーダーだ。
遊佐は仕方なく、気づかれない様にICレコーダーをミキに手渡す。
『遊佐って、あの刑事に取り入ってるのか? ……さて、瞳に怒りすぎたと謝るか。アカネもフォロー宜しくな』
『そうね。明日、ここを出るまでは仲良くしてもらわないとね』
ピッ。
「てめぇ……」
八田がミキを睨み付ける!
伊藤もムッとした顔つきで、ミキを見ていた。
「知っていたわよね? 八田さんも呼んでいたじゃないアカネって。何で嘘をつくの?」
「どういう事?」
相内は、驚いたまま八田と伊藤を見た。
ハッとして、八田は相内を見る。
「浮気していたの!!」
「浮気じゃない!」
八田が慌てて否定する。
「嘘よ! 名前で呼んで、ここ出るまでって言っているじゃない!!」
相内は立ち上がり叫ぶ。
「そ、それは……。ち、違うんだ!」
八田も立ち上がる。
「酷いわ! 伊藤さんも……」
相内は唇を噛み俯いた。
「これで満足?」
伊藤はミキを睨み付け言った。
「まさか。これで終わりじゃないわよ」
「終わりじゃないって! お前、何がしたいんだよ! こんな録音までして!」
叫んで睨み付けて来る八田に、ミキは睨み返す。
「浮気じゃないというなら別な理由を教えてよ!」
「………」
何も答えず八田は、ミキを睨み付けるだけだ。
浮気だと肯定も否定も出来ない。
「ねえ、アカネさん。あなたも名前を偽った理由を教えてよ」
「偽った? そんな事してないけど? それより名誉棄損で訴えるわよ!」
伊藤はそうミキに脅しをかける。
「あらどうぞ。私は別にそれでもいいわ」
「いいって、あなた……」
伊藤は驚く。
「目的は何だ?」
「さっきも言ったでしょう? 二人の関係よ」
八田の言葉に、ミキはそう答えると、八田はすとんと椅子に座った。
「お前の思っている通りの関係だよ」
八田がミキにそう返す。
「あら。認めちゃうんだ」
「あぁ……」
そっぽを向いたまま、八田は頷く。
「二人は共犯者だと」
「共犯者?」
バッと驚いて、八田はミキに振り向いた!
「さっきから何を言っているのあなた!」
伊藤も怒鳴る。
「俺がアカネと浮気していたって認めるって言ったんだ! お前が証拠を突きつけたんだろうが!」
「どうして? ……」
黙って聞いていた相内が、ボソッと呟いた!
「ごめん、瞳。つい出来心で……」
「出来心って事は、ここで初めて知り合ったって事なのかしら?」
「あぁ、そうだよ!」
八田は、ミキにムッとした声で返す。
「おかしいなぁ。そんなハズないんだけど?」
「そんなはずって……一体なんなのよ、あなたは!」
今度は伊藤が、ムッとしながらミキに言う。
「だってアカネさん、偽名で名乗っていたじゃない」
「な、何を言って……」
ニコッと微笑むとミキは、ICレコーダーに手を伸ばす。ハッとする伊藤は慌ててそのレコーダーを取り上げようとするも、遊佐にその手を掴まれた!
「違うって言うのなら、聞けばいいじゃないですか」
遊佐は、鋭いを目を向け伊藤に言った。伊藤は目をそらす。
ピッ。
遊佐から取り戻したもう一つのICレコーダーのスイッチをミキは入れた。
『……く自己紹介しませんか?』
皆が賛成する声が聞こえる。
『では、私から。四番に宿泊します、楠里奈と言います。宜しくね』
『私は、伊藤あやです。あ、二番です』
ピッ。
ここでミキは再生を止める。
「あやですって。自分の名前間違わないわよね? 私ね、楠さんから頼まれて動いていたのよ」
「何、言ってるの? もう、亡くなってるじゃない!」
ミキの言葉に、伊藤が叫ぶ。
「そうね。殺されたのよね。その前に依頼を受けていたのよ」
ジッと伊藤の目を見つめ、ミキは言った。
依頼自体は嘘じゃない。だが一旦終わっている。
「私が殺したと言いたいの?」
ミキは頷いた。
「何故私が!」
「もうわかっているでしょ? 私が何もかも知っているって事! これにあの時、楠さんに話した事が入っているわ。認めたら? あなた達がデータ泥棒だって事を! 相内さんからデータを盗んだ事を!」
ミキはICレコーダーを手に、伊藤を睨んで言った。
「そうだとして、それがどうして殺した証拠になるのよ!」
「アカネ!」
ミキはハッタリをかまし、伊藤を動揺させた!
楠とはそんな会話はしていない。
ミキの誘導の言葉に、伊藤が叫ぶと、止める様に八田が伊藤の名を呼んだ!
「データってどういう事? もしかして、今回のデータを……」
青ざめた顔で、相内は三人に問う。
「アカネさんが睡眠薬特製ドリンクを相手に飲ませ、寝ている隙にデータを盗む。そういうやり方で、今までデータを盗んでいた」
「おいおい、だったら俺は関係なくないか?」
八田がジッとミキを見て言った。
「この場合、アカネが俺を利用してデータをとった事になるだろう?」
「いいえ。これにはある条件が必要なのよ。パスワードの解除。つまりパスワードを手に入れないといけない。今回はスマホではなく、パソコンのパスワードだった。そんなの昨日今日仲良くなったアカネさんでは無理でしょう? それにもしパスワードを手に入れたとして、どうやってパソコンに触れられるの? あなたが仲間じゃなきゃ、それも無理」
「あなた何者なの?」
「私は記者よ! 保険外交員さん」
ミキは伊藤の問いに、待ってましたとばかりに返した。伊藤は驚き俯いた。
「あなたが楠さんに余計な事を言ったのね!」
伊藤は、悔しそうに犯行を認める言葉を口にした。
「っち。俺はそれに関しては関係ないからな!」
八田はシラを切ろうとする。
「それはおかしいな。これを頼んだのは君だろう?」
遊佐がそう言って立ち上がった。
懐から出した封筒を見て、八田が青ざめる。
「何故それをお前が持っている……」
「君が、買い出しに行くという高橋さんに、ポストに投函するようにお願いした封筒だ。もし何か渡されたら俺に知らせる様に頼んであったんだ」
遊佐は、封筒からUSBを取り出し見せながら八田に答えた。
「何の権限があってそんな事を!」
「こういう権限でだ!」
遊佐を睨み付け怒鳴る八田に、今度はポケットから出した警察手帳を見せ答えた。それを見た八田は青ざめる。
遠くから、パトカーのサイレンが聞こえ始めた。
「送り先には、もう手を回した。今頃、取り調べているだろう。観念しろ!」
「記者って嘘だったの……」
伊藤が呟く。
「本当よ。あなた方二人が相内さんからデータを盗んだのなら、楠さんとの接点もできるわ! つまり楠さんを殺す動機が出来る。あなたが犯人なのよね?」
「あなたが余計な事を彼女に言わなければ!」
「言ってないわよ。私は二年前、あなた達の正体をつかめず、記事に出来なかった! 約束を果たせなかったのよ! 約束を果たしていたら楠さんは殺されずにすんだわ!」
驚いた顔をしてミキを見る伊藤に、ミキは、悔しそうに言った!
階段を駆け上がって来る複数の足音が聞こえて来た。
「お待たせしました。捜査状が取れました! 二人の荷物、改めさせて頂きます!」
現れて早々伊東は、令状を二人に突きつけた!
「さて、証拠の楠さんの服を確認しに行きますか」
ミキの言葉に、二人はそこまで知っているのかと言う顔つきになり、観念する二人だった。
今までのやり取りは、令状を取る為の時間稼ぎと封筒の相手先の手配の時間稼ぎでもあった――。
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