秘密の関係
「で、君は誰が怪しいと思っているんだ?」
遊佐は、そう言って話を戻したが、ミキは困った。
謎の女性を隠していた事で、更に隠した事になる情報があるからだった。
「それが……昨日部屋を出る時に、楠さんの部屋から声が聞こえていたの。たぶん、その後に殺されたんだと思う。戻って来てからは、ずっと静かだったから。そう考えると、スタッフしか犯行を行える人がいないんだよね……」
それを聞いて遊佐は深いため息をする。
「アリバイ証言は、犯人でなくても偽証する。だから裏を取る。君を責める気はないが、その情報、もっと早く知りたかった」
「ごめんなさい……」
「こんな事言いあっていても仕方がない。で、その時間っていつぐらいだ?」
ミキが素直に謝ると、遊佐は気を取り直し聞く。
遊佐も結構、切り替えが早い。
「確か、零時すぎに声が聞こえて来た。ここの部屋って思ったよりしっかりしていて、普段の声はそんなに聞こえないでしょ? たぶん言い合いをして声が大きくなったのよ」
「そうなると、犯行時刻は零時過ぎから一時の間になるのか」
ミキは軽く首を横に振る。
「犯行時刻はそうだけど、言い合いになる前からいたと思うから、犯人はもしかしたら零時前から部屋にいたかもしれない」
「なるほど。そうなるとスタッフしかいなくなるな……。ところで君は、鎌田さんに見つからずにどうやって部屋に戻ったんだ?」
鎌田からミキを見かけたという話を聞いていない事からの質問である。
その質問には、目を泳がせながらミキは答える。
「実は、締め出しくらって。窓明けっぱなしだったの思い出して窓から入ったの……。ついてるんだか、ついてないんだか」
「何をやってるんだ。不用心すぎるだろう。とりあえず、
遊佐は、窓からの出入りの発想は、実体験からと悟った。
ミキは遊佐が出て行くと、ベットの上にごろんと横になった。
――スタッフの人と何があったんだろう? というか、スタッフの人が部屋に入るってどんな用件? 何か壊れたとか? ここの部屋って、テレビもトイレもないよね?
ふとベットの横の照明が目に入った。
――寝ようとしたら、点かなかったとか?
ミキは、体を起こした。その時手に触れたパジャマを見てある事に気づく。
照明を点ける時には、もう寝る時だ。パジャマや寝巻を着用している。呼びに行くにしてもネグリジェとかではない限り、着替えず一枚羽織るなりして呼びに行くはず。
「そう言えば楠さん、パジャマどころか、服を着替えていた! 昨日と違うの着ていたよね? 次の日に発見されたから、気づかなかったわ!」
――もしかして私と別れた後、部屋で密会? だから着替えた? でも、鎌田さんがいるから玄関からは……。いや、居たかどうかわからない。現に、堀さんや私が出て行く時は姿を見ていない!
二人で密会している内に口論になり殺害。床には手でもついたのかもしれない。その後、自分の持ち場に戻った所に、堀が戻って来た。死亡時刻を操作する為に楠なのかも知れないと嘘の発言をした!
ミキは、鎌田さんが犯人ではないかと推理する!
「よし! 遊佐さんに連絡!」
ミキは立ち上がり、ドアに向かい勢いよく開けた。
「び、びっくりした。よくわかったな」
ノックする体制で、遊佐が立っていた!
「……私もびっくりした。ちょうどよかった。思いついた事があって」
遊佐が部屋に入ると、ミキはドアを閉めた。
「で、思いついた事とは?」
「楠さん、着替えていたのよ! 発見時、昨日と服装違ったでしょ?」
「そうだな」
遊佐は、少し考えて答えた。
ミキは、感はいいのに何故これでわからないのかと、少しイラッとしながら続ける。
「だから、発見は翌日の朝でも、殺害時は昨日の夜でしょ? 普通なら着替えてないじゃない!」
遊佐はやっと気づき、ハッとする。
「そうか。誰かに会うために着替えたのか! でも、出かけてはいない。部屋に呼んだ? その相手に殺されたのか?」
「そうなると思う。外の人をスタッフに見つからずに呼ぶぐらいなら、出かけるでしょ? だから、会った人物はこの建物にいる。で、私が外に出る時に声を掛けたけど、鎌田さんは姿を現さなかった!」
遊佐は、難しい顔をして考え込む。
ミキの推測が伝わったらしい。
「潤と確認に行ってくる。ありがとうな」
そう言うと遊佐は、そそくさと部屋を出て行った。
密会の相手は鎌田で、ミキが声を掛けた時には、隣の楠の部屋にいたのではないか? という疑惑を確認をしに行ったのである。
ミキは、徐にショルダーバックを手に取るとある物を取り出した。それは、ICレコーダーだった!
「できる記者は、予備を持っているものなのよ。さて、一応彼も調べておかないとね。何か、からくりがあるかもしれないし……」
一人どや顔をきめ、ドアをそっと開けると通路の様子を伺う。となりの四番のドアは閉じられている。通路には、人影はなかった。
ミキはそっと一番のドアの前に立ち、レコーダーのスイッチを入れた。
彼とは、八田の事だった。
ドアノブに手を掛け回してみる。
鍵はかかってはいない。
そっとドアを少し開けると、怒鳴り声が飛んできた。
「お前、何やってるんだよ!」
――え! こっち見てた!
ミキは、ビクッと体を震わす。
だが、驚くも違った。
「書き込みとニュースで流れる事件が同じだって気づいたら、変な奴らがどんな奴が泊まっていたんだって調べて、俺達さらし者になる可能性だってあるんだ!」
「ごめんなさい!」
「ごめんなさいじゃない! お前だって仕事場にばれたら大変だろう? 容疑者にされたのかって!」
「ちょっと八田さん。相内さんもわかったって。もうこれくらいでいいでしょ?」
「ごめんなさい。ううう……」
相内は八田に怒鳴られ、泣き出したようだ。
――あの書き込み相内さんだったの? 伊藤さんとか八田さんの方がしっくりくるのに。本当に誰が書き込むか、わからないものね。
会話を盗み聞いたミキは、書き込みの犯人が以外な人物で驚く。でもこれで、書き込みは消去されるだろう。
「ったく、余計な事を……」
「ちょっと、外で話そう……」
伊藤が八田に話しかけ、ドアに向かって来る。
――外? こっちくる!
ミキは慌ててドアを閉め、自分の部屋に入る。
それと同時に、パタンとドアが閉まる音が聞こえた。
そっと居場所を確認すと、伊藤と八田の二人は二番のドアの前にいた。
顔を引っ込め、ミキは代わりにレコーダーを廊下に出した。
「なんでさっき、あんな事言ったのよ」
「さっきあいつに言った通りだ……」
伊藤が質問をすると、八田は聞いていただろうと返す。
「じゃなくて、女の人の姿を見たって事よ」
――それって、さっきの証言の事? 何故伊藤さんがそれを気にする訳?
ミキは二人の関係を疑う。
「別に大丈夫だって。っていうかお前、だいいち……」
八田は気にした様子もなく、伊藤に何かを聞こうとした時だった。
「何かありましたか?」
と、もう一人の声が聞こえた。
「……別に何も」
それに八田は、そっけなく答えた。
遊佐と伊東が戻って来たのだった!
――いいところだったのに!
ミキは、そっとドアを閉めた。ドアの前で廊下の様子を伺う。
遊佐と伊東は、遊佐の部屋に戻ったらしく、ミキの部屋のドアはノックはされなかった。
ふうっと、安堵の息をもらすとミキはそっと再びドアを開けた。その時ちょうどドアが閉まる音が聞こえた。遊佐達が自分の部屋に入った音だ。
そして、それを確認したかの様に、また声が聞こえてくる。
「遊佐って、あの刑事に取り入ってるのか? ……さて、瞳に怒りすぎたと謝るか。アカネもフォロー宜しくな」
「そうね。明日、ここを出るまでは仲良くしてもらわないとね」
二人は凄い台詞を言って、部屋に戻って行った。
ミキは、レコーダーのスイッチを切り、ポケットにしまった。
「驚いたわ。あの様子だと、以前からの知り合いでしょ? これで、犯人は鎌田さんに決まりかしら……」
もし八田が昨晩、部屋を訪ねたとしても、相手は伊藤だろうと思ったのである。
二人は隠れて付き合っている。ミキはそう確信する。
トントントン。
ミキは反射的にノックされたドアを開けると、遊佐は少し驚いた顔で立っていた。
「ドアの前にいたのか?」
そう言いながら、遊佐は部屋の中に入った。
「え? あ、そろそろ戻って来る頃かなって。早く鎌田さんの事聞きたくて……」
八田達は事件に関係なさそうだし、もう一つのレコーダーまで取り上げられては困るので、咄嗟にミキはそう誤魔化した。
「そうか。残念だがまだ黒とも白とも言えないな。奥で寝てしまったと言っている」
「まあ、そうでしょうね。何か証拠を見つけないとね」
ミキは、そう返すとベットに腰を掛ける。すると遊佐はソファーに座りこう返す。
「証拠か。犯行時、両隣は外出して居なかったからな。部屋の中から見つけるしかないだろうな」
――それは、嫌みですか!
と、言う文句を飲み込み、ミキは睨み付けるだけにした。
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