ミキの作戦

 三人を見送ると、皆は伊東に注目する。


 「あ、えーとですね。皆さんにお願いがあります。ここに二泊三日の予定で宿泊という事ですので、このままここに宿泊をお願いします」


 それを聞いた八田はったは。軽く手を上げ質問をする。


 「やっぱりそうなる訳? まあ、料金も払ってるし構わないけど、出かけてもいいか?」


 伊東はそれに、申し訳なさそうに答えた。


 「大変申し訳ありませんが、外出は控えて下さい」


 「なんで? ちゃんと戻って来るって!」


 「いや、あなた方も警官と一緒に観光は嫌でしょうから……」


 「俺達、疑われてる訳?」


 まだ何も手がかりがない。もしこの中に犯人がいて逃げられもしたら大変だ。そういう事なのかもしれないが、八田は、面白くないと言う顔をする。


 「やましい事がないなら、警察に協力しようじゃないか。それに、そんな気分でもないだろう?」


 遊佐ゆさがそう提案するも、隣で堀がぼそりと呟く。


 「そういう気分ではないけど、下見が……」


 「堀さん、警官連れて教会とかに下見にいくつもりなの?」


 ミキのその言葉に、堀は驚いた顔をする。


 「君、もう少し言い方を……」


 ミキは警察に賛成だった。誰も外に出して欲しくない。

 遊佐の言葉をスルーして、ミキは今度は伊東に話しかける。


 「刑事さん、私達を缶詰にするぐらいなんだから、泊まっている間に犯人を見つけてくれるって事なんですよね?」


 「え? そ、それは……約束できません」


 伊東だけではなく、ミキの質問にその場の全員が驚く。

 堀に下見に行くのかと言ったので、警察に協力的かと思えば、反抗的とも思える内容を口にしたからだ。


 「何それ? 警察は、私達の中に犯人がいると思っているんでしょ? 容疑者が全員目の前にいるのに、解決する気ないわけ?」


 「ちょっと待て。そんな簡単に見つかる訳ないだろう?」


 ミキの言葉に、遊佐が驚きそう発言をする。

 遊佐の言う通り、証拠が残っていなければ、すぐに逮捕にはならないだろう。


 「あのね。協力して、ここにいるのは構わない。でも私、犯人じゃないし、解決する気がないなら、協力する意味あるのって言ってるの!」


 「君は、ずいぶん自己中心的だな」


 ミキの言葉に、遊佐は呆れ顔で言った。


 「それで結構! 泊まっている間に解決してくれないと、折角の旅行が嫌な思い出のままで終わっちゃうじゃない」


 ミキはむっとした顔つきをする。


 「あの! 二人共落ち着いて下さい。も、勿論、皆さんが泊まっている間に解決する気持ちはあります。ですが、約束は出来ないと言う事です。ご理解下さい」


 慌ててそう言うと、伊東は深々と頭を下げた。


 「ふーん、そう。する気があるならいいわ。協力は惜しまないから、宜しくお願いね」


 ミキがそう言うと、はいと伊東は弱弱しく頷いた。

 そして遊佐が、小さくため息をつく。


 「あのー。朝食どうしましょうか?」


 話が終わったと思ったのか、スタッフの高橋がそう声を掛けて来た。

 殺人事件が起きて、スタッフだって動揺しているだろうに、キチンと仕事をこなしていた。


 「あ、はい。宜しいですよ。とにかく勝手に出歩かないようご協力お願いします。外には、見張りもいますので。では、失礼します」


 伊東は軽く礼をすると、一目散にこの場を出て行った。ミキのこれ以上の攻撃をさけたかったのかもしれない。


 スタッフが、皆の朝食をせっせと並べる。

 朝食は和食。ごはんにお味噌汁。卵焼きに焼き魚。野菜サラダもあった。


 「頂きます」


 ミキがそう言って箸を手に取るが、目の前に料理が置かれるも誰も箸を取ろうとしない。隣に座る遊佐もだ。


 一口食べ周りを観察すると、ミキ以外は誰も口をつけていなかった。


 「食べないの?」


 「いや、流石にあれを見た後に食欲わかなくてな……」


 ミキの質問に八田が答えた。


 「でも、残したら捨てるだけだと思うけど……」


 「あ、気にしないで下さい。食べられないのなら仕方がないですから」


 スタッフの西村が、気遣いそう言った。


 「ごめんなさい」


 伊藤はスタッフにすまなそうに謝る。


 「いえ。お気になさらずに。お昼は食べられそうですか? おにぎりならお作りできますけど」


 「そうですね。その頃には少し何か入るかもしれません。お願いできますか?」


 西村の質問に遊佐がそう返すと、彼女は頷いた。


 「ごちそうさま」


 「た、食べ終わったのか……」


 速攻に食べ終わったミキに、遊佐が驚いて呟いた。

 ミキが立ち上がると、皆ぼーぜんと見ている。


 「ゆっくり食事って気分でもないし……」


 そう言いながらミキの目線は、昨日一緒にくすのきと座っていたソファーに向けられていた。


 ――食べないと動けないからね。絶対にここにいる間に、犯人を見つけてやる! 楠さん待ってて! 敵とるからね! 記者魂に掛けて!


 ミキは、心の中で決意表明をする!


 「私は、部屋でくつろいでるわ。お先に……」


 くるりと皆に背を向け、食堂を出て行く。

 皆、ミキの背中を茫然と見送る。


 「驚いた。自己中って言うより、肝が据わってるって感じだよな。事件なんか関係ないって……」


 八田がボソッと呟いた。


 楠の部屋はまだ、検証が行われている。

 ミキは、それを横目に部屋に入るとドアに持たれかかり、ふうっと大きく息を吐き出した。


 「ちょっとやり過ぎたかな? でもまあこれで犯人は、私の前では油断するわよね?」


 ミキは、わざと事件なんか自分には関係ないと、周りに印象付ける為の振る舞いで一応作戦だった。

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