31話 VS赤薔薇姫(2)
死神が鎌を再度、振り下ろす。
赤薔薇姫がそれを剣で受け流す。
「今よ! 黒百合姫」
「さっきの丁寧口調はどこいったんだよ!」
俺はそのまま駆けて、死神の腹に連撃を叩き込む。
それからすぐにバックステップをして次は赤薔薇姫が三連突きを入れる。
それによって死神が少しばかり後ずさる。
「こんな雑魚、さっさと倒すわよ!」
「そうだな!」
死神が鎌を水平斬りで俺達の首を跳ねようとする。
それを俺が剣で受け止めて、その隙に赤薔薇姫が攻撃する。
普通の剣ならば死神の攻撃を受けたら壊れるだろう。
もしも受けるとしたら先程の赤薔薇姫みたいに直接受けるのではなく流すように受けたりしなければならない。
しかし燕涙はTEQ最強クラスの武器。
死神の攻撃だろうが受け切れる。
「HPが半分切った! 攻撃パターンが変わるから注意して!」
「了解!」
それから死神が醜い声を上げる。
すると空から雷の雨が降ってきた。
俺は慌てて右や左にステップを取って避ける。
しかし赤薔薇姫は動じることなく落ち着いて雷を全て避けて攻撃していく。
「死神はHPが半分を切ってからが本番よ! それと死神からもっと距離を取って! 強力な範囲攻撃が来る!」
「わかった!」
俺は赤薔薇姫に言われた通り後ろに走る。
赤薔薇姫は転移を使って先に戦線離脱する。
「シニサラセ!!!」
それからの出来事は一瞬だった。
絶対零度の冷気が辺りを一瞬で凍らせる。
もしも少しでも反応が遅れたら俺は間違いなく死んでいた。
「赤薔薇姫……」
「構えて! すぐに来るわよ!」
その声がしてから間もなく赤薔薇姫の背後に死神が突然現れ、鎌を振るう。
赤薔薇姫はすぐにしゃがんで回避。
それからすぐに死神に連撃を叩き込む。
「勝ちたくないわけじゃないわよ! ただあなたには自分の実力で勝ちたいのよ! 魔物に負けて私の勝ちなんて目覚めが悪い!」
「そういうことかよ!」
俺もすぐに走り出す。
それからすぐに死神に攻撃を叩き込む。
「赤薔薇姫! ここで決めるぞ!」
「了解!」
赤薔薇姫が剣を構える。俺もそれに習う。
それから死神が鎌を水平に振るう。
俺達は飛んでそれを避ける。
そして……」
「真紅の騒めき!!」
「レクイエム・ストライク!」
赤薔薇姫の剣は刃の桜吹雪のように何度も死神を切り裂く。
俺の剣は目にも止まらぬ速さで何度も死神の肉を抉る。
「ワレ、サイキョウナリィィィィィィ!!」
「この程度で最強を名乗るんじゃないわよ」
死神は断末魔を残して青い粒子になってその場から消えていく。
しかし勝負はこれからだ。目の前には死神をこえる強敵がいる。
「それじゃあ覚悟はいい? 黒百合姫」
「ダメって言っても攻撃するんだろ?」
「ご名答」
赤薔薇姫はすぐに剣を俺に向けて構えてくる。
俺もそれに答えるように剣を構える。
相手は最強のプレイヤー。一瞬の油断も出来ない。
「――いくわよ」
「来い」
その瞬間、真横を銀光が走った。
もしも反応が一瞬でも遅れたら、その瞬間に負けていた。
「次は外さない」
「行動で示してみろよ」
再び赤薔薇姫の突きが襲う。
彼女と剣を交えて分かった。
基本的に彼女の戦闘スタイルは突きだ。
しかし彼女の武器は細剣ではなく、普通の剣。
そのため突きだけだと思うと手痛いしっぺ返しを食らう。
「それじゃあ少し本気でいくわよ」
その瞬間、突風が起こる。
俺は剣を胸の位置に置き赤薔薇姫の攻撃を受け止める。
先程より少し重く、鋭い攻撃。
「お見事。あと3回撃つわよ」
「させるとでも思ったか?」
「優れた剣は時間を切り裂くのよ。覚えときなさい」
その時だった。俺は直感的に虚空を弾いていた。
しかしその動きは無駄ではなく確かな手ごたえが剣を伝わり分かる。
――カキンッ
遅れてそんな鈍い斬撃音が鳴った。
それから二度、剣を振って攻撃を防ぐ。
――カキンッ。――カキンッ。
しかしその隙を赤薔薇姫は逃さない。
俺の首元に目掛けて鋭い突きを撃つ。
俺は彼女の突きを海老反りになって避ける。
「なんだ……今の?」
「もう察しはついてるでしょ? 私は未来を斬ったの。だから未来の貴方に私の剣が襲った。呼ぶなら【赤薔薇の剣舞】かしら」
「チートだろ……」
「あなたの多重人格も似たようなものじゃない」
「いつから気付いてた!」
「そろそろお喋りは終わりよ。踊りましょ?」
彼女は剣を下す。海老反りになってる俺目掛けて。
俺は慌てて剣を自分の元に戻して赤薔薇姫の剣を受け止める。
「まぁこのくらい反応してもらわなきゃ興醒めよ」
しかしどうする?
赤薔薇の剣舞を攻略しなければ彼女には勝てない。
どうすれば攻略できる。
「司君!」
「雫! どうした」
「赤薔薇姫が言ってた次元の話! あれに赤薔薇の剣舞のヒントがあると思うの! ちょっと考えるから時間を稼いで!」
「任せろ!」
それからすぐに赤薔薇姫の猛攻が始まる。
突きに斬撃に連撃に過去からの攻撃。
受け切るのがギリギリで攻撃の隙も無い。
「どうしたの? あなたの実力はこんなもん? もうちょっと私を楽しませてよ」
「この出鱈目が!」
俺は気合で赤薔薇姫の剣を弾く。
それから一歩踏み込むがすぐに一歩下がる。
その瞬間、俺の目の前に斬撃が来る。
「お見事。ちゃんと未来の攻撃を読んだわね。でもそれすらも私は読んでる!」
「クソッ!」
再びバックステップで攻撃を避ける。
こんな出鱈目どうやって攻略するんだよ!
完全に化け物だ。これが異世界ラノベの現地民の気持ちかよ!
このチートが!
「それと黒百合姫。私はいつ剣士だと言ったかしら?」
それだけ言って赤薔薇姫は銃を構える。
もうそれだけで全てを察する。
これ以上の言葉は不要だ。
「今から13秒。それがあなたの余命よ」
バンッ。バンッ。バンッ。バンッ。バンッ。バンッ。
6回ほど銃声が鳴り響く。
しかし弾丸は来ない。
まさかこいつ!
「そう。未来のあなたに撃ったの。13秒後に――あなたは負ける」
その時だった。
一瞬だけ赤薔薇姫の動きが不自然な形で見えた。
右目の位置に突きをして、それから右下に剣を下ろす赤薔薇姫の姿が。
しかし赤薔薇姫は動いていない。
俺はそんな中で赤薔薇姫を切り裂く。
「一気にいくわよ!」
赤薔薇姫が近づいてくる。
しかし赤薔薇姫は突然、バックステップをとった。
それから、そこに斬撃が巻き起こった。
「随分と楽しませてくれるわね」
「そういうことか」
「司君! ごめん! 待たせたね」
俺の右肩、心臓、左足、腹。頭、右手に弾丸が来る。
俺はその位置に的確に剣を入れて、弾丸を落としていく。
そう、俺も赤薔薇姫と同じ領域に行ったのだ。
俺も未来を斬れるようになったのだ。
「これが……未来を斬るということか」
弾丸が現れるが、すぐに斬れて落ちる。
やっと意味が分かった。これはそういうものなんだ。
空想の剣であり、妄想の剣。
理解できない人ないは一生できない。
そんなのありえない。それがありえるかも。
ただそれだけが答えだ。
「未来を斬る。それは五次元を斬るということ。すなわち五次元に干渉することだ」
そして五次元に干渉なんてありえない。
しかしそれがありえた。
そう、雫とのキスによるタイムリープだ。
それは時間に干渉したと言わずなんて言うか。
俺は雫を通じて数秒先の未来を観測出来るのだ。
「正解よ」
赤薔薇姫が剣を振るう。
俺が未来に仕掛けた攻撃を弾いたのだ。
さて、五次元への観測。
それは雫みたいに五次元に干渉出来る人がいなければ不可能だ。
そう、人工知能がいなければ絶対に出来ない。
「なぁ赤薔薇姫。お前は一体なんなんだ?」
では赤薔薇姫はどうやって人工知能も無しで五次元を認識できるのか?
彼女はいったい何者なのか?
「一度しか言わないからよく聞きなさい。私は――よ」
今それが明かされようとしていた。。
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