23話 ブラック・リリーの強さ
TEQは様々な強さがある。
赤薔薇姫みたいな反応速度。
ホワイターみたいな未来予知に等しい読み。
他にも射撃能力、それに作戦を考える知恵なども良い例だろう。
タカシもそういった強さを持っていた。
俺は完全にそれを見逃していた。
(ここで剣を振り下ろして斬る!)
俺は読心能力でそれを読んで一歩後ろにステップして下がる。
しかしタカシは剣を振り下ろさなかった。
一歩前に踏み込んで激しい突き。
俺は咄嗟に体を捻るが少し掠り、HPが3割近く削られてしまう。
即死の刃じゃなくて普通の剣なのが不幸中の幸いか……
「能力は読心! つまり心で思った行動と別の動きをすればあなたは対処出来ない!」
「くっ……」
タカシの強さ。
それは状況把握能力と対応力。
すぐに自分の置かれた状況を把握して、それに適した対応をしてくる。
言うならばどんなにピンチになっても打開策を用意してくる相手。
「この勝負、もらった!!」
こいつ、なにも考えてない!
タカシの手には即死の刃が握られてる。
これで斬られたら間違いなく即死。
俺は咄嗟に右にステップして回避してタカシの攻撃を避けるが、タカシはすぐに追撃。
(そのまま突き出す!)
「どうせブラフだろ!」
来るのは振り下ろし。
それなら回避は後ろに下がるのが正しい。
だが、タカシはそれを読んでいた。
俺がブラフだと読むのを読んでいた。
即死の刃が俺の胸に深々と突き刺さる。
「勝負ありです!」
辺りにファンファーレが響く。
俺はあまりに呆気なく負けた。
タカシというプレイヤーを完全に舐めていた。彼はこれでも準決勝まで登り詰めたプレイヤーであり実力は確かなのだ。
『勝者。タカシ』
目を覚ますとタカシが手を伸ばす。
俺はその手を掴んで立ち上がる。
「良い勝負でした。ブラック・リリー」
「次は負けねぇぞ……」
「僕もです」
すぐに俺の元にシズクが寄ってくる。
俺はそっとシズクの髪を撫でる。
サラサラの黒髪は触れていて心地よい。
それからすぐに手を髪から頬へと滑らせる。
「……司君」
「次は勝つからな。雫」
「うん! 信じてる!」
俺は雫にキスをする。
雫の顔が良く見える。
鼻を雫の甘い匂いがくすぐる。
彼女の熱が唇を通じて俺にも分かる。
最後には絶対に俺が勝つと信じてる凛とした目が俺に勇気を与えてくれる。
俺はこのキスをする瞬間をとても愛しく思う。だがそれと同時に申し訳なくも思う。
雫を長い時間、戦いに付き合わせてしまっているという事実。
そんなことに申し訳なさを覚える。
雫は俺が対戦してる間、ずっと一人で座って見てるのだ。他人のゲームを見るほど退屈なことは無い。
それを何時間と文句一つ言わずに行っているのだ。その事実に申し訳なく思わないわけがない。
だから、次こそは絶対に勝つ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
気付くとそこは雪山だった。
俺が今回のゲームで開始地点に指定した場所。
どんなに惨めに呆気なく負けようが俺には雫がいる。雫が俺を見ている。
だから俺は何度だって立ち上がって戦える。
誰にも負けない雫への想い。
それが俺、ブラック・リリーの強さだ。
「今回の課題は生き残る。とりあえず30分間生き残り、俺の攻撃ターンに持ち込む」
今回はステータスの変動が無いから魔物を狩るという行為に意味が無い。
つまり相手からしても攻めない理由がない。
やる事は単純だ。
相手の攻撃ターンはひたすら逃げて、こっちの攻撃ターンは全力で追って倒す。
ホワイターの時は姫ルール。
イノセンス・ドリームの時は常に両者攻撃可能で守り側は攻撃出来ないというルールの意識が削がれていたが、これが本来のTEQの形で守り側は逃げるしか……
「いや、違う。店長は守り側でも攻撃してきた。そう、MPKだ」
上手く魔物を誘導してMPKでタカシを倒す。
タカシから逃げる方法がまったく思い浮かばない現在、それを視野に入れても良いかもしれない。
そうなると俺のやることは魔物の群れを探す、もしくはアイテム“きびだんご”を探す。
この広大なマップでタカシから逃げながら限られたアイテムを探すのは困難を極める。
しかも、きびだんごはレアアイテムでマップに一つあるかないかだ。
でも俺には……
「いや、次は勝つとか言っていて、なんでループ前提で考えてるんだよ」
MPK作戦はあまりにループ前提過ぎる。
間違いなく論外だ。
もっと別の方法を考えろ……
「敵を倒そうとするな。どうやったら三十分生き残れるか頭を回せ……」
相手の装備は即死の刃と普通の剣。
つまり銃は見た限り無かった。
そして瞬発力は追加ルールで全く同じ。
ここは仮想空間でゲーム内で疲れというものは存在しない。
それなら走り続ければ理論上は逃げれる。
TEQにおいての当たり前。
だからこそ基本的には射撃ゲーだ。
そもそも銃を殆ど見なかった今までの方が異常なのだ。
もっとも今回のきゃぴきゃぴカップは赤薔薇姫とかいう銃弾を弾き落とす化け物がいるから仕方ないのかもしれないが……
「魔物は倒しても意味ない。むしろタカシを抑えるためにこちらにとってありがたい存在」
俺は思い立ったかのように走り始めた。
そろそろ五分経ってタカシが来る!
タカシから俺は逃げなければ……
「逃がさない!」
目の前を剣先が横切る。
俺は間一髪で止まって回避。
前を見ると目の前にはタカシがいた。
転移で先回りか……
俺はすぐに方向転換して、タカシに背を向けて逃げ出す。
「待て!」
「悪いけど今は逃げが安定だよ!」
だが、それもつかぬ間。
再び転移で目の前にタカシが現れる。
(そのまま突き刺す!!)
読心を使って攻撃を回避。
今度は体を右に捻り、再び逃げ出す。
これは間違いなく鬼ごっこだな。
もっともタッチの代わりに剣で切り裂くか貫くと少し物騒だが……
(再び転移で距離を詰めて……)
「逃げてるだけかと思ったか?」
転移でタカシが現れると同時に俺は回し蹴りをタカシにぶち込んで怯ませる。
そして、その一瞬を逃がさぬ足を引っ掛けて背負い投げして地面に派手に叩き付ける。
「おイタはここまでにしとけよ」
手首を軽く捻って剣を落とさせて俺は剣を奪う。たしかに守り側はダメージは入らない。
だが相手を羽交い締めにして抑えることは可能。
(ブラック・リリーは間違いなく油断している。ここは転移で後ろに回り込んで怯んだところに即死の刃を突き立てれば……)
まずい!
タカシが転移すると同時に俺はタカシから離れて、すぐに奪った剣の腹で攻撃を受け止めていく。読心しなければ間違いなく間に合わなかった。完全に転移で抜けられるのが頭から抜け落ちていた……!
「即死の刃は使い捨てだ。これでもう使えなくなったな」
「くそっ……」
即死の刃は高い攻撃力を誇る。
だが、それは武器や鎧にも適応されて一度でもそれらを叩けば消滅してしまう。
(武器はない……相手の能力も分からない。ここは撤退して体制を整える)
タカシが転移で消えていく。
なんとか助かった……
残り18分で、この時間で武器を見つけて攻めてくるとは考えにくい。
恐らくタカシは残り時間で策を練ってくる。
さて、次は俺の攻撃ターンだ。
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