22話 準決勝開幕
「勝者! 赤薔薇姫! きゃぴきゃぴカップ決勝に駒を進めたのは赤薔薇姫だぁぁ!!」
会場に響く実況の声。
今回は試合数が少ない事もあり、同時進行じゃなくて分かれて行われる。
俺も赤薔薇姫のプレイを見ていたが凄まじいという言葉しか出なかった。
赤薔薇姫の後攻で始まり、試合時間はたったの42分だ。
攻撃のターンになるとすぐに近づき勝負を仕掛けにいって、難なく勝利。
赤薔薇姫がゲームを終えるとこちらに目配せをしてくる。
『先に決勝で待ってるわよ』
と言いたげに……
それから俺はすぐに移動する。
準決勝の試合を始めるために……
立ち上がると軍服がフワリと揺れる。
そんな俺をキラキラした目で見る雫。
彼女が見てるんだ。絶対に負けられない。
「すみません……あなたがブラック・リリーさんですか?」
「あぁ」
「やっぱり! 僕はあなたの対戦相手のタカシです! よろしくお願いします!」
「こちらこそな」
白いTシャツにジーパンのどこにでもいる普通の少年。しかし彼の目には熱があった。
絶対に勝つという信念にも等しい熱が……
それから少しだけ話して俺とタカシはTEQにログインする。
タカシには悪いが勝つのはこの俺だ!
『ブラック・リリーVSタカシ』
目の前に大々的な文字がドンと出てくる。
遂に準決勝まで来たのだ。
タカシにも信念があって想いがある。
だけどそれは俺も同じで譲るつもりはない。
『先行『タカシ』、後攻『ブラック・リリー』に決定しました。次に異能力の設定を行います』
俺に渡された異能力は『心が読めて、相手の考えてることが分かる』という初めてお目にかかる能力だった。もっとも一定距離内にいる時だけという条件はあるが……
しかしこれはシステムで可能なものなのか?
まぁ考えても仕方ないし保留だな。
『続いて追加ルールの設定を行います』
「即死の刃を初期装備で互いに配給で頼む」
追加ルールは既に決まっている。
俺は負けない。裏を返せば最終的に勝てばいいのだ。何千周しようが、どんな手段を使おうが俺は勝てばそれでいい。
そんな考えを踏まえた上で俺が選んだ追加ルールがこれだ。
『では、続いてタカシ様からの追加ルールを連絡します。タカシ様が追加したルールは“ステータスの固定”です』
ほぅ……
常に互いにHPと俊敏性が100に固定されるというわけか。それは青色の魔物と緑色の魔物を倒すメリットが無いことを意味するな。
『では最後にスタート地点を決めてください』
「北東のここら辺で頼む」
そうしてTEQ準決勝が開幕した。
開始地点は雪山だった。
腰には即死の刃。
これで切り裂けば俺の勝ち。
しかし相手もそれは同じこと。
俺は雪山を適当に散策していく。
その度にシャリシャリと雪の音が鳴るが冷たさというものは一切ない。
それから俺は刀を見つけて拾う。
その瞬間に背後から緑色のエイティが現れる。エイティはHPが480前後で攻撃力は120程度のそこそこ強い魔物。
動きも決して遅い方ではない。
「グおおおおおおおォォォォォ!!」
イエティの大振りのパンチ。
しかし俺にとってそれは遅かった。
右に二歩だけ歩き、回避して剣でイエティの首をそっと撫でる。
するとイエティの首が――ポロリと落ちた。
「遅せぇ」
イエティは決して遅くない。
俺の瞬発力は100と高くもない。
つまり、俺は成長していたのだ。
死神という強力な魔物との対決に、一流プレイヤーであるホワイターとの戦いを得て俺は反応速度が上がっている。
でも、それでも遅せぇ。
こんな動きじゃ赤薔薇姫とは戦えない。
もっと早くならないと……
そんな矢先だった。
(後ろからの不意打ち!)
頭の中に声が響いた。
俺は三歩だけ前に出た。
その瞬間、辺りに雪煙が舞った。
(今のを避けただと!?)
これが心が読める能力か。
とても便利な能力と言っても良いだろう。
(そのまま左斬りからの下上げ)
分かる攻撃を受けるのは容易い事だ。
俺はヒョンヒョンと受けて、そのまま剣をタカシに突き出す。
タカシの体に剣は当たるがカキンと鈍い音が鳴って弾かれてしまう。
「お前がタカシか。悪いが勝ちを譲る気はねぇぞ?」
「僕だって!」
剣が弾かれたのは俺が守りのターンだから。
つまりシステム通りで慌てることじゃない。
だが、タカシは準決勝まで来た実力者。
ここで引き下がるわけがない。
(ここで負けたら梨花はどうなる! 僕は梨花を絶対に助ける! 負ける訳にはいかないんだ!!)
梨花?
こいつもワケありで負けられない理由があるわけか。だけど俺も同じだ。
俺は雫を助けると決めた。
雫を何処の馬の骨か分からない人物にわたすきもねぇ。俺は絶対に雫のために勝つ。
その想いだけは誰にも負けない!
(ここは足払いで!)
剣が足を狙って地面スレスレに来る。
俺はそれを飛んで回避。
(それは想定内! そのまま突きで勝負をつける!!)
「なに!?」
俺はすぐに剣の腹で突きを受け止める。
なんていうセンスの良さだ……
もしも読心能力が無ければやられていた。
見くびっていたわけじゃないがタカシは間違いなく強敵だ。
「なるほど。ブラック・リリー。あなたの能力が分かってきましたよ」
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