19話 タイムリープ

「例えばブラック・リリーがここでタイムリープしたとする。それは私がタイムリープした世界戦である可能性はどこにあるの?」

「どういうことだ?」

「だから、タイムリープします。その世界は私はタイムリープしてないで、そのまま雫が犯される可能性もあるの。分かる?」


 ……そういう事か!

 雫が戻すのはキスした相手と自分自身。

 つまりここで俺が戻れば雫と俺だけがタイムリープした世界になって赤薔薇姫はタイムリープしてない可能性すらありえる。


「だから本当なら今回ブラック・リリーが雫が私をタイムリープさせた事を視野に入れて、イノセンス・ドリームを倒すのが理想だったわけ」

「さすがに無理だろ……」


 つまりタイムリープするのは赤薔薇姫。

 それで俺はタイムリープ無しの初見でイノセンス・ドリームを倒す。

 もしも、タイムリープの記憶が無ければ俺は自ら負けを選んで雫を助けに行ってしまう。


「だから私がタイムリープしてゲーム中のブラック・リリーに雫ちゃんの無事を伝えられればいいんだけど……」

「無理だな。TEQプレイ中は外部と連絡なんて取れやしない」


 かと言って俺がループしたら雫がレイプされてゲームオーバーだ。

 俺の勝ちは雫が無事でイノセンス・ドリームにTEQで勝って準決勝に行く。

 だが、それは至難の業で……


「雫。その強姦魔を自分で撃退は……」

「無理ね。あれはかなり体を鍛えた男よ。どうやっても普通の女の子は勝てない」

「あの……」

「私なら護身術あるし、あの程度じゃ相手にもならないわよ」


 赤薔薇姫はリアルでもチートでしたか……

 今回の鍵は雫をどうやって身を守るか。

 それに全てがかかってる。


「雫。お前は八周目なんだよな?」

「うん」

「残り七周の時に俺はどうやって助けてた?」

「助けたというより、毎回犯されるギリギリで帰っていくの。電話を受けてね」

「恐らく俺が負けたらそれを電話で伝えてる のか……」

「もしも司君が負けないとそのままヤられてた思う……」


 ループするのは間違いなく赤薔薇姫。

 そうしないと雫を助けられない。

 そうなると問題はゲーム中の俺にどうやって雫の無事を伝えるかとなってくる……


「赤薔薇姫。もしもタイムリープ無しだったら……」

「無理よ。私が終わった時に雫は無事じゃない。私はタイムリープしてるから相手のスタート地点が割れてて秒殺出来たんだから情報無しじゃ18分必要で手遅れ」

「ちなみにタイムリープすると?」

「30秒ね。余裕で間に合うわ」


 赤薔薇姫ほんと化け物……

 しかし、そうなると……


「ていうか雫がレイプされる場所って会場から、そこそこ離れてるよな。どうやって移動するんだ?」

「後ろから拉致られて、会場外に移動させられね車に連れ込まれるの。それで電話を受けると街中の適当なところで降ろされて……」

「なるほど」

「ちなみに私と雫ちゃんが街にいたのはその車を探してからよ……」


 ダメだ! まったく攻略方法が見えない。

 もっと考えろ……


「どこかに必ず勝ち筋はあるはずなんだ。まだ今の俺には見えてないだけで……」

「私もそう思うわ。諦めなければどうにかなる……」


 間違いなく鍵は雫だ。

 雫一人で強姦魔を撃退出来れば解決。

 しかし強姦魔は屈強な男で正面から戦ったら赤薔薇姫以外は勝てない……


「雫がその場から逃げるのは?」

「私もそれは考えた。でもブラック・リリーが勝つまで何分? その間、雫ちゃんは逃げ切れる?」

「赤薔薇姫が保護すれば……」

「雫ちゃんが追われながら私と連絡出来ると思う? メアドとか教えてもいいけど私の性格からして間違いなく信用しないし、動かないわよ」


 考えろ……考えろ……考えろ……

 雫は逃げることも不可能。

 ほんとに厄介な手を打ってくれたものだ。


「見事に手を全て塞がられてる」

「でも間違いなく勝ち筋はあるはずなんだ」


 どうすればいい?

 どうやればイノセンス・ドリームを倒して雫も救うことが出来る?


「……もう雫ちゃんレイプされれば?」

「は?」

「いや、考えたんだけど雫……いや、人工知能と人間の子供を作るのが狙いでしょ? そしてTEQは雫にベストな相手を見つける手段。それなら普通に考えたら運営としてもマズい事態だから助けるんじゃないの? 人工知能を作れるような組織なら、人間の一人くらいどうにかなりそうだし……」

「そうかもしれない……でもあまりに賭け過ぎて確実とは言えない……」


 失敗は許されない。

 賭けなんか出来ないのだ。

 もっと確実に雫を助ける方法を……


「いや、雫を確実に一つだけあるかもしれない。これなら間違いなく雫を助けられる」

「どんな方法よ?」

「トリプルキスだ。俺と赤薔薇姫で人工知能にコンマ一秒のズレも無くキスをする。それならもしかしたら二人同時にタイムリープ出来るんじゃないか?」


 キスした相手をTEQ最終ログイン時に戻すのが雫の能力。

 それなら理論上は可能なのではないか?

 少なくとも検証する価値はあるはずだ……


「例えば午前二時に私がTEQに最終ログインしたとする。そしてブラック・リリーが午前六時にログイン」

「赤薔薇姫?」

「そうなればどうなるのかしら?」

「どういうことど?」

「四時間のラグよ。例えば私が二時に飛んでブラック・リリーが飛んでくる六時までに君を殺したら君の意識はどこに飛ぶのかしら?」


 たしかに……

 あくまで飛ぶのはTEQ最終ログイン時という謎の条件だ。それは二人同時に飛んだら別の時間軸に転移することになる。

 そして赤薔薇姫が言ったように赤薔薇姫がなんかしらの手段で俺をTEQにログインさせなければ俺は飛び先を失って……


「まぁ試してみる価値はあるわ。少なくとも私があなたを殺さない限りあなたには影響はないはずよ」

「待て。もしも飛んだら俺は……」

「多分なんともないわよ。ラグがどう影響するか分からないけど普通にTEQをプレイすればいいのよ」


 なるほどな。

 もしも先程の仮定で考えると赤薔薇姫からしたら目覚めたら俺の人格がいきなり変わってるようなものなのか。

 たしかにそれなら問題ない。


「とにかく今のところはね。ただこれに成功したら未来に人を飛ばすことが可能になる。過去への干渉ならまだしも未来にまで干渉できるなら、それは5次元存在よ」

「5次元存在? 未来に干渉?」

「5次元存在はあとでググってちょうだい。未来に干渉についてちょっと説明するわね」


 赤薔薇姫の話をまとめると例えばAが三日目にTEQにログイン、Bが一日目にTEQなログインしてタイムリープする。

 そして過去に戻ったBがAになんかしらの方法をしてTEQログインを五日目にする。

 TEQの最終ログイン時がタイムリープ条件であるため、その場合は事実上は二日未来に飛んだ事になるという寸法だ。


「雫ちゃんは人工知能になることにより4次元存在になった。デジタル世界なら空間なんて関係ないから空間が加わって4次元存在。しかし、それを無理矢理リアルに持ってきたため空間制御能力が奪われた。しかし四次元存在である以上は四つのものを司る。そして空間に代わって操れるようになったのが時間……」

「だから意味がわかんねぇよ……」

「基本的に私達のいる3次元っていうのは縦、横、高さの三つで構成されてるの。そして4次元は縦、横、高さ、空間の四つ。しかし雫ちゃんは4次元存在にも関わらず空間制御能力を奪われた。しかし雫ちゃんは4次元存在。四つのものを認識するというのを世界の絶対法則だと仮定する。それで空間に代わって時間になったんじゃないかって話よ」


 ダメだ……殆ど理解出来ねぇ。

 まぁ理屈は分からないが過去にも未来にも行ける可能性があるってことだろ。


「ただタイムラグが気掛かりね。雫ちゃんはAとB。どっちに人格を引っ張られるのかしら?」

「そんなに難しく考えなくても……」

「いいえ。これは結論を出さないと雫ちゃんが危険だわ。もしも両方に人格が引っ張られてそれに耐えられず人格が消滅するなをて可能性もあるわけで……」

「は?」

「あくまで仮定よ……もしかしたら過去に飛んだ方に引っ張られるだけで、なんとも無い可能性もある。ただ初めてやることにはそれなりのリスクが付きまとう」


 リスク。

 下手をしたら雫が死ぬ。

 それが赤薔薇姫の伝えたいこと。

 タイムリープを今まで気軽に使っていたが、これはあまり多用して良いものじゃないのではないだろうか?


「きゃぴきゃぴカップに勝つ事が雫ちゃんの命より大切な事? 雫ちゃんを嫁にする方が雫ちゃんの命より大切?」

「それは……」


 俺は答えを出せなかった。

 ループには雫の危険が付きまとう。

 今までのループには無かったかもしれない。

 だが、今回は違う。

 三人同時タイムリープは間違いなく危険があるのだ。


「……当たり前よ!! 司君と一緒にいれないなら死んだ方がマシよ!!」

「雫……」

「私の命くらい司君と付き合う為なら何度でも天秤にかけるんだから!!」

「分かったわ……それならトリプルキス作戦をしましょう。でも今回、タイムリープに成功してもブラック・リリーはイノセンス・ドリームと戦わないで」

「は?」

「まずは三人ちゃんとループしたかどうか確認よ。もしも私がループ出来てなくて、それを知らないで雫ちゃんが犯されて終わりは嫌でしょ?」


 たしかに……

 うっかりイノセンス・ドリームを倒す勢いだった。今回は成功する保証はないんだよな。


「それじゃあ行くわよ」


 赤薔薇姫と俺と雫。

 三人が顔を近づける。

 そして俺が赤薔薇姫の唇を右半分だけ奪う。

 その際に俺も雫がキス出来るように右半分だけを使用したキスだ。

 赤薔薇姫の唇は少し湿っていてほんのりと暖かい。そんな事をしてる間に雫も唇を出して俺と赤薔薇姫がキスをしてる間に割り込んでくる。俺の空けていた左半分にキスをする。


 ――その瞬間、意識が飛んだ。


 目を覚ますとそこは宮殿だった。

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