18話 番外戦術

 外に出て、俺は辺りを見渡す。

 すると地面に雫の髪飾りが落ちていた。

 まさかこんな手をしてくるなんて。

 あの女は絶対に許さねぇ……が、そんなことを言ってる場合じゃない。


 ループするのは雫とのキス。

 もしも強姦の途中でキスされたら雫の能力が割れてしまう。

 だけど問題はそこじゃねぇ。

 雫の心に大きな傷を残すことになる。

 俺は街中を走る。


「すみません! 青と白のワンピースを着た黒髪セミショートの女の子を見ませんでしたか? 名前は雫と言うのですが……」


 街の人に聞き込みをしながら雫を探す。

 それらしき該当人物を見たとの情報がチラホラとあって俺はすぐにその場所に走る。

 そして走っていると俺の方に向かって歩いてくる雫がいた。


「司君! やっぱり戻って……」

「雫! 無事だったのか!」


 俺はすぐに雫に駆け寄って抱き締める。

 雫を抱き締めて数秒経ってゴホンゴホンと咳の音が聞こえて隣に赤薔薇姫がいることに気付いた。


「赤薔薇姫?」

「雫ちゃんなら私が助けたわよ……」

「どうなっている?」


 なぜ、赤薔薇姫がここにいる?

 もしかして赤薔薇姫も一枚絡んで……


「司君。実はこれ八周目なんだ」

「は?」


 八周目?

 つまり、雫は既にループ済みなのか?


「まず最初は私が犯されかけたところを司君が助けてくれたの。でもそれでループしても手のうち用ない。最初は司君が手っ取り早くイノセンス・ドリームを倒して私を助けようとしたんだけど時間が足りない。五回やってもダメだった。だから最後に司君が赤薔薇姫に事情を全て話して私と赤薔薇姫がキスをして赤薔薇姫が過去に戻って勝負を一瞬で片付けて私を助けに来てくれたわけ」

「なるほどな……」

「まぁ赤薔薇姫が間に合うかどうかっていうのは賭けだったけどね……」


 たしかに賢い手だな。

 しかし赤薔薇姫はどうして助けてくれた?

 一体なんのメリットがあって……


「さて、ブラック・リリー。約束通り人工知能の始祖シズクについて全て話してもらうわよ」

「なるほど……別の世界線の俺はそれを対価にして赤薔薇姫と交渉したわけか」


 しかし、赤薔薇姫はどうしてそんなのに釣られたのだろうか?

 赤薔薇姫にとってどうでもいい話のように思えるのだが……


「私の本名は姉小路あねこうじあかね。日本の現在の内閣官房長官である、姉小路あねこうじ清隆きよたかの一人娘よ」

「な!? ガチのお嬢様じゃねぇか……」

「えぇ。私は将来、お父様と同じ立場に立ち日本を支えるつもりでいるわ。でも私が大人になる頃には今以上に人工知能が社会に関わってくる。だから私は人工知能について理解しなければならないの」

「つまり?」

「例えば人工知能の軍事利用。もしも人工知能の知識が甘ければ他国に侵略されかねないわ」


 話が飛躍し過ぎだろ……

 だが彼女にとっては大切な事なのだろうな。


「私は人工知能について理解して、どう向き合うかどうか知らねばならない。それにTEQに潜む闇も暴かないとならないの。そのためにピース。それは間違いなくさ、そこのシズクなのよ」

「闇?」

「まぁ闇というのは大袈裟かもしれない。ただTEQは人工知能を開発する科学力を保持している。それなのにどこの国にも所属していない。その意味が分かる?」

「闇を暴くというよりは真意を見極めた上で対抗策を見つけるか……」

「いいえ。TEQ運営は間違いなく世界征服を狙っていてTEQは人工知能の試運転の舞台なんだわ! だからその証拠を……」


 あー分かった。

 赤薔薇姫ってあれだ。厨二病だ。

 それも自覚が無い根っからの救いようがないタイプの厨二病。しかもそれが父の地位を継ぐという夢と混ざって変な方向に行っている。


「分かった。話してやるよ。そもそもTEQっていうのは――」


 TEQは雫の夫を決めるゲームである事。

 そして雫が人工知能を人間に入れた存在である事など色々だ。


「なるほどね……しかし人工知能を人間に入れるとリアル能力に目覚める。そして雫ちゃんの場合はキス戻り……」

「しかも何故かTEQに最終ログインした時に時間を巻き戻す……」

「デジタルに干渉する異能力。どうしてTEQなのかしら? もしもTEQが開発されてなかったらどの時間軸に戻ったのかしら?」

「ちなみに俺は答えが出ないと思って考えるのをやめた」

「――もしかして人工知能の能力は現実とTEQをリンクさせる能力……わかったかもしれないわ」


 はいはい。

 まぁ厨二病の痛い妄想を聞いてやろう。

 どんな妄想をしたのか……


「TEQと人工知能は宇宙人からのプレゼント……それで宇宙人は人工知能を人間に入れると能力に目覚めるように設定した」

「いや、ありえないだろ」

「そもそも脳は電気信号で情報伝達するから人工知能の電気信号を本来、人間の脳の使わないところに干渉させて能力に目覚めるようにしたら……もっと科学的に言うなら人間の脳に人工知能はウイルスのようなもので電気信号で能力バグを引き起こす……」


 TEQはデジタルで世界そのものが電気信号で作られてるようなものだな。

 たしかに雫の能力の鍵は電気信号かもしれない。もしもTEQが人工知能に使った技術と同じ技術を使うことで同一の電気信号になってシンクロするからTEQの最終ログインにタイムリープするようになったのか?


「もう少し事例が欲しいわね。何度か人工知能を人間に入れて検証したいところだけどそんな都合良く出来るかしら?」

「……ホワイター。やつがそのためにTEQに出ていたな」


 ホワイターは白姫という人工知能に肉体を与えるために参加していた。

 そして白姫も肉体を欲しがっていた。

 もしかして彼等なら……


「ホワイター? まぁ私に言ったところでどうしようもないわよ」

「いいや……TEQを勝ち進めて世界大会で優勝すれば雫を妻にするだけじゃなくて、別に出来る限りの願いを叶えるって話だ」

「なるほど……それだけじゃなくてTEQをやってくうちに運営側からの接触も考えられるわね。そこで意見を言えば採用される可能性があると」


 さて、雫の無事は確認出来た。

 それならやることは一つだ。


「雫」

「ん?」

「今から、お前に乱暴しようとしたイノセンス・ドリームをぶん殴ってくる」

「うん! 思いっきり叩きのめして!」


 俺は雫に顔を近付ける。

 そんな時だった。赤薔薇姫が俺の首根っこを掴んで引き戻す。


「簡単にタイムリープすんな」

「はぁ? 俺は勝たなきゃいけな……」

「馬鹿なの? タイムリープしたら取り返しのつかない事になるわよ」


 俺の考えは甘かった。これから聞く赤薔薇姫の話でそれを実感させられた。

 これはタイムリープでどうにかなる問題じゃない。もっと手を打たないとならない問題だということに……

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