17話 準々決勝

『イノセンス・ドリームVSブラック・リリー』


 遂に始まる準々決勝。

 昨日、買った軍服に身を包み勝負に備える。

 ここから先は強敵揃い。

 ちょっとの油断が命取りになりかねない。


『先行『イノセンス・ドリーム』、後攻『ブラック・リリー』に決定しました。次に異能力の設定を行います』


 俺の異能力が確定する。

 俺はループの中で嫌という程この異能力が最も勝負を分ける要素だと学んだ。

 だからこそ良いのが来るのを祈るばかりだ。


『ブラック・リリー様の異能力が確定しました』


 能力は『炎』という単純なものだった。

 そのまま炎を自由自在に操る能力。

 タイマン性能なら間違いなく五本指だが、搦手に対応しにくいな。

 そしてイノセンス・ドリームは搦手を得意としてくるプレイヤーだ。

 相性は最悪と言っても過言ではないだろう。

 だが裏を返せばタイマンに持ち込めばこちらの勝ちだ。


『続いて追加ルールの設定を行います』


 どうやって追加ルールで勝ち筋を掴むか。

 店長にホワイター。それらは全て追加ルールに縛られて相手の土台で戦っていた。

 つまり相手を俺の土台に引きずり込む。

 言うならばタイマンせざるおえなくする追加ルールを設定したいところ……


「“互いが常に相手の位置が分かるようになる”で頼む」

『かしこまりました』


 三十分逃げ切ったら、転移を使って地獄の果てまで追って焼き殺す。

 これが俺が思い描く今回の計画だ。

 だが、そんな簡単にいくわけがない。

 相手は準々決勝まで上り詰める強者だ。


『では、続いてイノセンス・ドリーム様からの追加ルールを連絡します。イノセンス・ドリーム様が追加したルールは“守り側でも攻撃を可能にする”です』


 そう来るか……

 相手はどうやら直接対決をお望みのようだ。つまりイノセンス・ドリームは俺とタイマンで勝つ自信がある。

 それは攻撃系の異能力である可能性が高いと考えていいかもしれない……


『では最後にスタート地点を決めてください』


 今回のゲームでスタート地点など関係ない。

 間違いなく転移で移動しまくって殺し合いとなるのが明白だ。俺は適当に真ん中を押す。


『では良いゲームをお楽しみください』


 場所は宮殿だった。

 転移した、その瞬間に背筋に冷たいものを覚えた。


「あなたがブラック・リリー?」

「燃えろ!!」

「凍りなさい」


 間違いなくイノセンス・ドリーム!

 いきなり仕掛けてくるとは!

 俺は炎で辺りを燃やすが、イノセンス・ドリームは全て凍らせていく。

 相手の能力は氷か。

 これは炎と氷の戦い……


「このルールなら無難に真ん中選ぶよね。私達は気が合うのね」


 イノセンス・ドリームは大胆に胸元を露出したメイド服を着ている。しかも胸もメロンと言いたくなるくらいあるのでかなり目のやり場に困る。

 それに大人の色気をムンムンと辺りに放っている。

 一言で言うならサキュバスのような女。


「随分とカッコイイ軍服ね。本物の革命家みたい」

「そうかよ……」

「でも、子供の遊戯もここまでかしら?」


 地面から氷の刃が飛び出してくる。

 俺はそれをバックステップで回避して、すぐに能力を使って炎の矢を放つ。

 しかし炎の矢はイノセンス・ドリームの冷気によって凍って砕けてしまう。


「お返しよ」


 そして今度は氷の矢。

 俺は炎の盾を作って防いでいく。

 基本的に炎と氷の格は同じ。

 氷を後に出せば炎は凍る。

 逆に炎を後に出せば氷は溶ける。


「どこまで戦えるか試しさせてもらうわ」

「悪いが付き合いきれねぇよ!!」


 今度は氷が雨のように降り注ぐ。

 俺は氷がぶつかる前に転移して離れる。

 だが逃げる気はない?


「あら、こんなところまで……」

「隙あり!」

「きゃっ!」


 イノセンス・ドリームの背後に移動して炎で練られた刃で切り裂く。

 しかし彼女の反応速度も早くて、踊るように回避。それどころか回し蹴りで俺の頬を殴ってくる。


「遠くに転移して私があなたの位置を確認しようとしたタイミングで再転移して背後から奇襲。子供の浅知恵ね」

「くっ……」

「TEQで肉弾戦はまずありえない。基本的に物理攻撃が与えるダメージは5程度。でも、20回くらい殴ればHPが上がってない相手なら殺せるのよ?」


 たしかに言う通りだ……

 塵も積もれば山となるってやつだ。

 まぁ炎や氷のダメージは180くらいだからそっちを叩き込んだ方が早いけどな。


「炎、氷、雷、風、闇と呼ばれるTEQ攻撃力最大と謳われる5つの異能力。それは想像力が求められるのよ」


 そう言うと氷の狼が現れた。

 狼はとても大きく5mくらいあるだろう。

 しかし、そんな芸当も可能なわけか……


「アイスウルフ・ショック」


 氷で作られた狼が俺の元に飛んでくる。

 だけど誤算が一つあるぞ。イノセンス・ドリーム。

 それは俺が炎の能力だということ。


「守れ」


 俺も真似て炎で狼を作り向かい打つ。

 炎の狼は氷の狼に食らいついて、溶かす。

 そしてそのままイノセンス・ドリームに……


「お子様ね」


 その瞬間、足元から氷の剣が飛び出してきた。俺は慌てて炎の狼は解体して後ろに転がって避けていく。


「今みたいな大型な物を作ると、集中して動かす必要があるから使用者は隙だらけになるのよ」

「真似るのも計算済みか……」

「さて、それじゃあね。そろそろ移動しないと間に合わないわよ。ブラック・リリー」

「は?」

「あなたの大切な人。雨宮雫ちゃんだっけ? 早くしないと――危ないかもよ」


 上から氷の槍が降り注ぐ。

 俺はそれを回避しながらイノセンス・ドリームに叫ぶ。


「お前、雫になんかしたのか!!」

「私は何もしないわよ。ただ、お金で男に命じて雫ちゃんをレイプするように命じただけ」


 不味い!!

 俺はすぐに炎を出して自分の身体を焼く。


『勝者。イノセンス・ドリーム』


 雫の身が危ない!

 早く助けに行かねぇと!!


「どうも。勝ちをありがとね」


 辺りを見渡すが雫の姿は見えない。

 俺は雫を探しに会場外へと走り出した。

 雫。無事でいてくれ!!

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