16話 デート

「ば、ばけもの!!」

「対戦。ありがとな」


 俺は無言で銃で撃ち抜く。

 その瞬間、ファンファーレとアナウンスが流れる。


『勝者。ブラック・リリー』


 きゃぴきゃぴカップ二回戦。

 今回はループするまでもなく俺の勝ち。

 ホワイターに比べてあまりに弱すぎる。

 何を考えてるか読むのが容易いし、それにこっちが詰みになる激しい攻撃がない。

 こんな相手に負ける要素がないのだ。


「司君。お疲れ様! そして、きゃぴきゃぴカップ三回戦出場おめでとう!」

「あぁ」


 そして次は準々決勝だ。

 少なくとも二回は勝った相手で、今回みたいに簡単に勝てはしないだろう。


「それにしても早く終わったね」

「そうだな。時間もあるし折角だからデートでもするか?」

「デ、デ、デ、デート!?」

「いや、俺達は付き合ってるんだからデートくらいするだろ?」

「えええええぇぇぇぇぇぇ!! 私達って付き合ってるの!?」


 違うのか?

 もうキスも何度もしてるし、そもそも嫁にする宣言までしたんだから俺は付き合ってるという認識だったのだが……

 そういえば告白をしてないな。

 たしかに実感は湧かないかもしれないな。


「雫。一つ言うの忘れてた」

「はい?」

「好きです。付き合ってください。そして俺の嫁になれ」

「はい! 喜んで!」


 俺は正式に雫と付き合う事になった。

 それから雫と俺は服屋に行った。

 雫と少し話してて服が欲しいということになったからだ。

 しかしただの服ではない。


「司君! これなんてどう?」

「吸血鬼衣装か……」


 そう、TEQの服だ。

 TEQ内の衣装というのは現在着ている服がそのまま反映される。

 今まではジーパンに王と書かれた文字Tシャツというラフな格好だったがそれじゃ少し盛り上がりに欠けると雫が言い始めたのだ。

 たしかにホワイターも白いタキシードだったりと服に気を遣っていた。

 最近、TEQのために更衣室を置いてるゲーセンだって少なくない。

 俺も衣装を持っていても良いかもしれないな。


「白衣でマッドサイエンティストっていうのも面白いかもしれないな……」

「司君!! これなんてどう?」

「いや、カウボーイは無いだろ……」

「それじゃあ燕尾服?」


 どれもいまいちパッとしない。

 俺は適当に散策しながら服を探していく。

 男性用メイド服、水着、黄色いネズミの着ぐるみにピエロ衣装。

 どれもときめかないな。


「あ! これなんてどう?」

「どれだ?」

「これこれ!」


 そう言って雫が服を持ってくる。

 その服は黒いマントに学生帽みたいな帽子。

 股上が深く、ゆったりした黒いストレートパンツ。コートみたいだけど襟がしっかりしてて金色のボタンやバッジで彩られた服。

 それはすごくカッコイイとしか言い様がなかった。


「それに胸元を見て! 百合の花の刺繍が凄くオシャレじゃない?」

「軍服か。悪くないな……」


 雫が選んだのは軍服。

 デザインは完全なオリジナルだが、無理にでも史実で言うならナチスの軍服が一番近いだろうか?

 まぁもっともナチスの軍服にマントなんてものは無いが……


「値段は?」

「五万円!!」

「少し高いな……まぁいいか」


 俺は軍服を持って、そのままレジに行く。

 そして会計を済ませて軍服を買った。

 恐らく準々決勝から、この衣装で戦うことになるだろう。


「司君! さっそく着てみてよ!」

「明日のお楽しみな」

「ちぇ〜……」


 雫が唇を尖らして軽く拗ねる。

 俺はそんな雫の頭を撫でてご機嫌を取る。


「まぁ近くのパフェでも奢ってやるからさ」

「……それなら許す」


 しかし、きゃぴきゃぴカップも準々決勝。

 残るは俺を含めて八人だ。

 もうここら辺まで来ると名が知れたプレイヤーが多い。特にウチの地域は激戦区だしな。

 そして俺の次の対戦相手『イノセンス・ドリーム』は優勝候補の一人。

(まぁ俺を除いた残り七人中三人が優勝候補だったりするのだが……)


「司君? もしかして次の試合のことを考えてるの?」

「あぁ……イノセンス・ドリームはメイド服に身を包んだ女性プレイヤーで、この辺りでは“悪魔”の異名を持つ」


 気付いたら詰んでいた。

 そんな話を良く聞いている。

 実力こそホワイターや赤薔薇姫に劣るが姑息な手段で勝ちを掴みにとる辺り厄介かもな。


「ふーん」

「雫。どうした?」

「司君は千里眼の革命家って呼ばれてるの知らないんだ」

「え!?」

「ブラック・リリーも話題になってるよ。どんな作戦も相手の弱点も見抜いてくる千里眼の持ち主で格上狩りってね」

「そうか……」


 まさか俺が話題になるとは……

 少しだけ予想外だ。


「でも俺は革命家以前に俺は雫の王子様のつもりだ」

「きゃっ!」

「お姫様。これからもよろしくお願いします」

「はい」


 俺は軽く雫の手の甲にキスをする。

 唇と唇を重ねない限りループはしない。

 そのくらいなら大丈夫だろ。


「そして姫様。絶対にあなたを救います」

「うん。私を助けてね。ブラック・リリー」


 俺は誓った。

 絶対に誰にも雫を渡さない。

 改めて、そう強く誓ったのだ。


「雫。愛してるよ。これからもずっと」

「私もだよ。司君」


 俺は雫を強く抱き締める。

 雫の体温が暖かかい。

 いつまでも抱きしめていたいとすら思う。


「司君は私のために世界を敵に回せる?」

「世界どころか宇宙だって敵に回してやる」

「なんでそこまで出来るの?」

「宇宙なんかより雫一人の方が俺は大事だからだ。お前のいない世界なんてクソ喰らえだ」


 俺はホワイター戦で何度も折れたし、諦めかけた。でも本気で逃げる事は出来なかった。

 逃げようとすると雫の事が思い浮かぶ。

 それから雫のいない世界を考えてしまう。

 そして俺は心の中で叫ぶんだ。

『雫がいない世界なんていらない!』と。


「司君。なんで私をそんなに愛してくれるの?」

「雫だけは俺の傍にずっといてくれたからだよ。親は最低限のお金と家だけ残して消えて、姉は小学生の時に勝手に留学して米国に飛び立った。でも雫は昔から俺の傍にいて離れなかった……だから離したくないと思っちまったんだけど。そして雫のいない世界なんて考えられなくて……耐えられなくなった」


 俺は弱い。だから雫が好きだ。

 雫だけか俺を助けてくれたから。

 俺を一人にしないでくれたから。


「そっか……司君。だいすき!」


 だから俺は雫を手放さないために、きゃぴきゃぴカップを優勝しなくちゃならないんだ。

 そう、雫と二人で。


「勝とうぜ? 雫」

「うん!」


 そうして準々決勝が始まる時が一刻と迫ってきていた。

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