15話 VSホワイター(3)

 泣いても笑ってもここで勝負が着く。

 そして転移しようと思ったその時だった。

 ホワイターはいきなり再度、転移した。

 もう一度、鳥でホワイター居場所を探す。

 再度、ホワイターを見つけると彼が転移下場所は神社だった。

 まさか神社ステージが選択されてるとは中々珍しい。TEQのレアステージで出たらラッキーと言われてるエリアでもある。

 そしてホワイターが上空を見る。


「ブラック・リリー。君には一杯食わされたよ。もうボクは君を侮らない。ここで最終決着といこう――ボクは全力で君を倒す。だから来いよ。格の違いを教えてやる」


 それだけ言って、俺の人形鳥が矢で落とされた。どうやらホワイターにバレたようだ。

 俺が人形兵という能力だということに。

 人形兵は視覚と聴覚を共有する。

 それを知っての宣戦布告。

 俺は再度ステータスを確認する。


「よし、いこう」


 そうして俺は転移した。

 転移すると目の前には仁王立ちでホワイターがいた。


「ブラック・リリー……まずボクは君を侮った非礼を詫びよう。君は強い」

「ホワイター……」

「そして白姫はボクの嫁だ。白姫のためにボクはこんなところで負けられない」


 剣がカランカランと投げられる。

 恐らく、それを拾えという事なのだろう。

 俺は警戒しながら剣を拾う。


「ここで転移で逃げて君の人形兵を全て狩って回復アイテムも全て拾って毒で君が死ぬのを待つ。そしたらボクの勝ちだ」

「その前に俺が白姫を見つけて倒す」

「その可能性もある。五分五分も良いところだ。だから――ここで剣で決着を着けないか?」


 タイマンしろってことか。

 それを飲む旨味はたしかにある。

 この能力が割れた状態でホワイターに逃げられたら勝つのは難しい。

 ホワイターだって今は俺の真の狙いに気付いてないみたいだが引いたら間違いなくバレてしまう。

 つまり転移で逃げられてホワイターが冷静に分析を始めたら俺の勝率は二割くらいになる……


「俺の追加ルールでダメージは与えられない。どうするつもりだ?」


 俺は詳しく尋ねる。

 勝負自体はこちらにも旨味がある。

 悪い提案ではないが……間違いなく裏があるのは明白だな。


「基本的にはチャンバラさ。ダメージは入らなくても鍔迫り合いとかも出来る。また当たったらエフェクトも出る。チャンバラをするには充分さ。そして剣に当たったら負けと見なして姫を差し出すっていうのはどうだ?」

「なるほど……」

「もちろん白姫にはそちらの姫に手は出させない。全てが口約束だけど信じてほしい」

「分かった。ただ一つだけ不安要素がある。もしもお前が剣に当たった後に約束を破り、転移で逃げる事だ。だから俺が攻撃のターンになったらにしろ」


 そうすれば、10分以上の時間が貰える。

 それだけ俺のステータスが伸びていき勝ちが確実になっていく。

 出来れば飲ませたいところだが……


「それは出来ないね!」


 しかし、ホワイターの返事は剣技で返ってきた。素早い右上段からの振り下ろしが俺を襲う。俺は咄嗟に手にある剣で受け止める。


 ――カキンッ!


「ナイス反応! 君は時間を稼いでステータスを上げる気だろ? そんなのは許さない」

「クソっ! バレてたか!」

「それじゃあ一騎打ちといこうか」

「分かったよ! 約束は守れよ! ホワイター!」


 どこまで約束を守るか不明だ。

 しかしホワイターが仕掛けてきた以上戦うしかねぇ。

 幸いにもホワイターは黒姫を倒そうとかしてこないみたいだ。

 それはこっちにとって好都合だ!


「――そっちこそ!」


 どちらにしろホワイターとの戦闘をする気で俺はここに来た。

 不安要素が黒姫が倒されること。

 それが破棄されたのはありがたいとしか言い様がないな。


「お前の剣は遅いな」


 ホワイターの剣は遅い。

 避けようと思えば避けれる速度。

 それは脅威とはならない。

 俺の方が有利な試合。

 俺は何度も素早い剣技を放つがホワイターに全てギリギリで避けられる。

 それこそ読まれてるような動きだ。


「くそっ……やっぱり俊敏性の差が大きいか!」

「お前が白姫とエッチなんてしないでステータス上げをされてたら俺は確実に負けてたよ」

「そうだね。君を動揺させる作戦が完全に裏目に出たよ。ボクの読み違いさ」


 ホワイターが水平切りをしてくる。

 俺はそれをしゃがんで回避。

 そして、そのまま喉に向けて突きを出す。

 しかしホワイターはすぐさま剣を自分の方に戻して剣の腹で弾いた。


「嘘つけ。それだけじゃないだろ」

「君はどう思うんだい?」

「お前は周りに教えたかったんだろ! 人工知能にも意思があるってな! 最初はお前が白姫を強姦してるのかと思って怒りを覚えたよ」

「何故だい?」

「人工知能と言えど意思はある! 相手が人工知能だからってそんなの許されるわけがない! ってな」

「その通りさ。人工知能と言えど意思もあり感情もある。だからボクは白姫を酷使するTEQから白姫を救う!!」


 人工知能は人間と同じ。

 それを会場の全員に実感させたかった。

 だからホワイターは会場全員が観戦してる大会の試合中にそんな事をしたのだ。

 実際は強姦じゃなくてただのイチャイチャだったわけだけどな!!


「そうかよ! でも俺も負けられねぇんだよ!」


 ホワイターにも何としても勝たなければいけない理由があるのは剣を交えて分かった。

 それこそ俺の思いにも匹敵するなにか。

 白姫に対する紛れもない純粋な恋愛感情。

 ホワイターは紛れもない一途な紳士だ。


 でも、俺にも雫という姫が待ってる。

 雫が俺の勝ちを望んで応援している。

 だから負けるわけにはいかないんだ!!


「クララ・ストライク!!」


 俺の必殺技。

 これで一気に勝負を着けようとした。

 しかしホワイターはそれを読んだ。

 俺の最初の一撃を右ステップで避ける。

 クララ・ストライクの動作は俺の身体に染み付いてしまい動きは止まらず連続で二撃を虚空に打ち込む。

 それが大きな隙となってホワイターに後ろから剣で叩かれた。


「しまった!!」

「ボクは絶対に負けるわけにはいかないんでね!! 黒姫の命は頂戴する!」


 ホワイターがそのまま駆け込み、黒姫を切り上げていく。

 黒姫のHPがゴソッと削られて虫の息。

 クソっ! また負けるのか!!


「ジ・エンド。良い勝負だったよ」


 HPは完全には削れなかったみたいだが毒が回ってあと二秒もしないで黒姫は死ぬ。

 また、俺は負けるのか!

 そう思った矢先だった……


『勝者。ブラック・リリー』


「な!?」

「え?」


 何故か俺の勝ちを称えるファンファーレが流れた。それにホワイターも俺も唖然とする。


「まさか! ステータスオープン!」


 【ブラック・リリー】

 HP908/1354 瞬発力963

 赤色の魔物30 転移16/30


 そうしてゲームが終わり、現実に戻される。

 俺の本来の作戦が上手くいった。

 最後までホワイターにそれを悟らせなかったのだ。


「司君!!」


 雫が俺に抱きついてくる。

 俺はそっと雫の頭を撫でる。


「ブラック・リリー!! どういう事だ!?」

「TEQ基本ルール『赤色の魔物を30体倒せば無条件勝利』だ。俺の人形兵がホワイターと戦ってる最中も動いてたのは知ってるだろ?」

「まさか……」

「そうだ。ギリギリで赤色の魔物を人形兵が30体狩ったんだよ」


『赤薔薇姫は赤が好き』


 その赤は赤色の魔物の事だ。

 赤薔薇姫のくれたヒント。

 赤色の魔物30体討伐の勝ち筋を狙え。

 俺は最初からそれが狙いだった。

 ステータスなんていうのは副産物。

 赤色の魔物はフィールドに40体しかいないから11体以上ホワイターが倒していたら俺は負けていた。


「クソっ! 次は絶対に勝つからな! ブラック・リリー!!」

「ホワイター。怒らないのか?」

「負けたのはボクの読みが浅かった。それに君は約束通り姫を差し出した。現にボクは君の姫を斬ったしね」

「お前、紳士なんだな……」


 しかしホワイターとの約束を破ったようなものだ。こんな勝ちで良いのか……


「雫……」


 俺は雫を抱き寄せてキスをしようとする。

 しかし雫がそれを拒否する。


「勝ちは勝ち。それをドブに捨てるなんてバカげてる」

「それも……そうだな……」


 卑怯な気がするが勝ちだ。

 それにホワイターはこんな負け方でも満足してるみたいだ。

 それならそれで良いか。

 ループしたところで勝ち方が変わるだけでホワイターな負けたという事実は変わらない。

 ホワイターの願いを摘み取る事には変わりないのだから。


「ブラック・リリー。優勝しろよ」

「――あぁ」


 そうして俺はホワイターとの長かった戦いを終えて無事に二回戦へとコマを進めた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ブラック・リリー。まさかホワイターを倒すとは雫が見込んだだけの男って事はありますね」


 モニターをニヤニヤしながら見る男が二人。

 一人は燕尾服を着た若いイケメン。

 もう一人は白衣に身を包む髭がアイデンティティでダンディーな渋い男。


「実に良い戦い方ではないか。これならシズクを任せても良いと言いたいが……問題は人柄だ」

「それなら私がテストします」


 そんな会話の中でメガネをかけたロリが入ってくる。明らかに場違いな雰囲気のロリ。

 しかし不思議と違和感はなかった。


「メガネちゃん。君がテストするというのか?」

「はい。準決勝を勝った辺りに私がTEQを通して人柄を確認します。博士」

「まぁたしかに準決勝辺りが丁度良い頃合か……」

「やっぱり実の娘だけあって彼女の恋愛を応援したいんですか? 博士」


 軍服が茶化すかのように言う。

 それに博士と呼ばれた髭がアイデンティティの男は微笑みで答えた。


「シズクは記憶が無くても私の娘だからな」

「やっぱり。そうですか。それなら上層部には上手いこと報告しておきますね」

「しかしブラック・リリー。貴様がシズクを悲しませる時はこの私が全力で貴様を殺しに行くから覚悟しとけ」


 博士と呼ばれ、シズクの実の父を名乗る髭がアイデンティティの男は不気味に笑った。

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