14話 VSホワイター(2)
荒野に出た瞬間に俺は急停止して、振り返り、剣でホワイターの首筋を狙うが、それは白姫によって受け止められる。
「黒姫!」
「はい!」
だが、想定内。
黒姫は銃を取り出して白姫に向かって撃つ。
後ろにはホワイターがいて避けたらホワイターに当たる。間違いなく白姫は避けない。
誰もがそう思った。
「ボクのお姫様に手を出さないでくれるかな?」
しかし、ここでホワイターが芸当を見せた。
なんとホワイターは腰から瞬時に銃を出して黒姫が放った弾丸を撃ち落としたのだ。
あまりの精密射撃に思わず唖然とする。
「ボクは絶対に負けられないんだ。特に白姫の目の前ではね?」
「やっちゃえ……ホワイター……」
「姫様も君の命をご所望だ。ケリを着けさせてもらうよ」
その瞬間、目にも止まらない速さでナイフが飛び出てくる。
あまりの速さに反応が遅れて、俺の頬にナイフが掠ってしまった。
「ボクの能力は解毒不可能の毒。一秒にHPを1ずつ削っていくのさ……ジ・エンド!」
「1つ良いことを教えてやるよ」
最後の最後まで解毒方法は分からなかった。
だけど毒対策は万全にしてきた。
さて、そろそろ種明かしといこう。
「……3600」
「は?」
「それが俺のHPだ。毒で削るには約1時間かかるな」
「強がりを!」
「お前は俺を攻撃型の能力だと思ってるだろ……悪いが俺の能力はHP3000スタートだ!! 600なら上げられる時間だしな」
相手を騙せ。
こういう会話で時間を稼げ。
そして次に俺の考えてることを読ませるな。
ここから先は賭けだ。
負けてもいい。負けたらやり直すだけだ。
「ホワイター。お前は有名プレイヤーだ。ネットで話題だろ? 毎回、姫ルールを追加するってな!! だから俺は賭けだが、お前を縛る為だけに能力でダメージを与えられないようにした!」
俺の実際のHPは1004だ。
でも、騙されろ! ホワイター!
お前ならきっと騙される!
「俺は最初から姫を殺す気だよ! ダメージを与えられねぇプレイヤーなんて恐れることはねぇ」
追加ルールによってホワイターは毒でしかダメージを与えることは出来ない。
つまり最低でも16分待たないと俺を倒せない。そして俺はHPを満タンまで回復させる薬を持っている。それをギリギリで飲めば合計で32分……! 32分もあれば勝てる。
「……ブラック・リリー。一つ誤算があるよ」
「なんだ?」
「それは君の姫が殺されて負ける負け筋さ」
「悪いが俊敏性は俺の方が上だ。恐らくお前より先に俺は白姫を倒せるよ!」
そして言い忘れていたが、俺は現在進行形でステータスが上がり続けている。
俺は作った人形兵をフィールド中にばらまいて魔物狩りをさせている。
つまりホワイターを抑えてさえいれば奴は魔物を狩れず、俺に一方的にステータスの差を付けられていく!
「三十分くらいならタカが知れてる」
「それはどうかな。こんなアイテムがあったりするんだよな」
一気にここでケリを着ける!
俺は10秒だけ俊敏性が100倍になる薬を飲んで、一気に近づく。元々高い、瞬発力を更に100倍にしたら速さは音にも匹敵する。
現実なら体がイカれるがここはゲーム内。
そういう心配はいらねぇ!!
「まずい!」
「終わりだな」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ボクは比較的裕福な家庭で産まれて育った。しかしボクの家は厳しくて私立中学に入ることを強制させられ物心ついた時から勉強漬けの日々だった。
ボクは何時間も何日も勉強した。
小学校は時間の無駄だと行かせてもらえず、朝六時に起きて勉強。食事の時間すら惜しいと一日二食の生活。そしてトイレすら制限されて就寝時間の深夜二時になるまで勉強させられた。
そして受験当日。
――ボクは体調を崩して受験出来ずに落ちた。
ストレスによって発狂して意識不明の状態となり、そのまま半年間入院。
お父さんやお母さんのボクにした事は虐待と判断されて、お巡りさんのお世話。
勉強しか知らないボクの元にはなにも残らなかった。
それから一般家庭に引き取られ、公立の中学校に入るも不登校になり、ゲーセンで悪友と時間を浪費する日常わ、
勉強漬けのおかげで知識と頭脳あって、それなりに金を稼ぐ術は知っていたからゲーセンで遊ぶ程度のお金には困らなかった。
そして、そんなある日にボクはTEQにハマった。TEQでボクは『ホワイター』と名乗り何万回もプレイしていた。
TEQはとっても楽しくてボクに生きる意味を与えてくれた。
何度も試行錯誤して研究もした。
気付いたら廃人となったボクの周りから悪友は離れ、親すら愛想を尽かしていた。
それでもボクはTEQを辞めることはなかった。
だけど、ある日を境にボクにとってTEQが遊びではなくなってしまった。
ボクが興味本位で追加した姫ルール。
そこでボクは白姫という存在に会った。
白姫達、人工知能は寝る間もなくTEQ運営のために働かされている。前のボクと似た境遇があった。
最初は面白半分で追加した姫ルールだが、そこであった似た境遇の美少女“白姫”にボクは恋に落ちた。
気付いたら毎回のように姫ルールを追加してTEQに白姫を呼び出していた。
いや、白姫に会うためにTEQをしていた。
そして白姫もボクに好意を見せてくれて、TEQ内で対戦相手をそっちのけでデートしたりエッチしたり、なんていうのは日常になっていた。
そんな中でボクはTEQ世界大会の存在を聞いた。噂によれば優勝者はどんな願いでもTEQ運営が全力で支持して叶えてくれるとかそんな話も出回ってる。
それに白姫から聞いたシズクという人工知能に肉体を与えられた前例。
「ホワイター……」
「白姫。ボクは世界大会で優勝する。そして君に肉体を与える――そしたらボクと結婚してください」
「はい♪ 私はホワイターの姫であり妻です」
ボクは白姫のために世界大会で勝つ。
その為にこんな地区大会のきゃぴきゃぴカップで負けてる訳にはいかないんだ!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ボクは負けるわけにはいかないんだ! 転移!」
「クソっ!」
俺の剣が虚空を切り裂いた。
どうやらギリギリでホワイターが転移して、白姫に逃げられたみたいだ。
「ここで勝負が着けば良かったんだけどな。まぁ本来の作戦通りにいくか」
「ブラック・リリー。ごめんなさい……私は足手まといで……」
「気にするな。黒姫は生きてるだけで上出来だ」
しかし、転移を使うのは予想外だ。
俺はここで勝負が着くか、回避してきてカウンターを決めてくると踏んでいた。
実は今は非常にヤバい。
このままいったら俺は負ける。
今回、俺は能力を騙すという賭けと相手が毎回のように姫ルールを使用しているという運任せの賭けには勝ったがここで逃がしたら意味が無いし、全てが台無しになってしまう。
間違いなくホワイターは魔物を狩ってステータスを整えてから俺の元に来る。
そうしたら絶対に勝てなくなる。
「……こっちが攻撃側になるまであと何分だ?」
「22分ですね」
まだ8分しか経ってないのか!
ホワイターと交戦を始めてから約15分くらいだろうか?
時間が全然足りてねぇ。
「とりあえずステータスオープン!」
【ブラック・リリー】
HP735/1004 瞬発力896
赤色の魔物12 転移16/30
ステータスを確認する。
瞬発力はホワイターと約9倍の差。
それでも100倍になる薬を飲んだから100倍して約900倍の差が開いた、間違いなく回避不可能な一撃。
しかし、そんな回避不能な一撃に反応して転移してくる辺りホワイターは天才と言いざるおえない。
「あのブラック・リリー……どうやってこんなにステータスを上げたんですか?」
「人形兵だ。人形兵が魔物を倒した場合、俺のステータスが上がるから大量に人形兵を作ってマップ中にばらまいた。その数は黒姫も知ってると思うが68体。それほどの人形兵が10km×10kmなんて狭いマップで一斉に狩りをしたら爆発的にステータスは伸びるだろ」
「なるほど……」
マップ中にばらまいた。
裏を返せば人形兵がホワイターに見られる可能性があるわけだ。
もしもホワイターに俺の能力が人形兵だとバレたら間違いなく対策してくる。
タネが割れたら俺の負けだ。
そのためにホワイターから常に目を離さないようにする必要があったのだ。
「一応、転移石を一つ拾ったが相手がどこにいるか分からかいと転移出来ねぇよな……」
考えろ。考えろ。考えろ。
どうやったらホワイターの場所が分かる?
ホワイターだったらどこに逃げる?
人形兵のタネが割れたらなにを考える?
そしてどのような手を打ってくる?
この回は諦めてもう一度ループするか?
いや、こんな良い局面には二度とならない。
ここで絶対にケリをつけたい。
「……いや、手はある!!」
もしも、ホワイターが人形兵に気付いたら間違いなく何かしらの手を打つ。
魔物を狩り尽くすか人形兵を全て壊す。
そして、その後は逃げて俺が毒で死ぬのをひたすら待つ。もしも俺が攻めてきたらカウンターを決めて黒姫を倒す。
そういった作戦をとってくるだろう。
常にホワイターを俺との戦闘という枷で拘束すれば人形兵の心配はない。
しかし常に黒姫の存在が俺の近くにいて負けのリスクを伴う。
もう負けなのか?
『諦めないで。司君……ううん、私の王子様ブラック・リリー!!』
そんな時だった。
聞こえるはずのない雫の声が聴こえた。
「ブラック・リリー。どうしましたか?」
「いいや、なんでもねぇ」
幻聴か。
でも諦めちゃダメだ。
俺は赤薔薇姫の言葉を思い出す。
『負けが確定した勝負なんてありえない。どこかに必ず勝ち筋はあるから、それを見つけなさい』
そう。 絶対にまだ勝ち筋はある。
俺が諦めない限り絶対にある!
だから考えろ。どうやったらホワイターの位置を見つけられる?
ホワイターの位置が分かる便利アイテムなんていうものはない。
転移が出来るのは一度だけで闇雲に探すことは不可能。
よく考えろ。有用なアイテムは無し。
使えそうなルールも無い。
そして俺の能力は『イメージした形の人形を作り、その人形を自由自在に操る』
……待て。俺は答えはこの試合が始まる最初に言っているではないか。
――“この能力は偵察にも使える”と
そして黒姫のダミーを作れた事から大きさも形も自由自在なのは証明済み。
どんな人形だって作れる。
「俺の現在のHPは700程度。そしてHPを満タンまで回復する薬があるからHPをギリギリまで削って6体人形を新たに作って……そこから回復すれば勝てる」
俺は薬を出して、手に持つ。
そしてイメージしていく。
今度作る人形兵は人型ではなく鳥。
六体の鳥と視覚を共有して、上空からホワイターを見つけてそこに転移。
「ブラック・リリー……」
「頼む……!」
目の前が光った。
その瞬間、鳥が産まれた。
鳥は飛び立ち、ホワイターの探索を始める。
「成功だ! 黒姫。転移したらこれを飲め」
「これは?」
「透明になる薬だ。お前は絶対に死ぬなよ」
そして鳥を五体解き放つ。
上空から魔物を現在進行形で狩っているホワイター達を視認する。
長かったゲームもこれで終わりだ。
決着といこうぜ? ホワイター。
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